ある高齢者向けのマンションでアンチエイジングについて講演をしたときのこと。
いつものように、
「アンチエイジングで心身ともに若返ったとしましょう。だが、それはなんのため?」と問いかけをしました。
「それはQOL(人生の質)を高めるため」という答えを引き出してから、これもいつものように、「ではQOLとは何でしょう」と対話は続きます。
「それは生きがいでしょう」
「ではその生きがいとは?」
そこで僕の持論である、「生きがいとは人に必要とされていると思うこと」ということを父の例を挙げて展開しました。
私の父、塩谷信男は85歳まで世田谷で内科の医院を開業していました。引退後は熱海のケアホテルに居を移し、好きなだけ三島スプリングスに通い、ゴルフ三昧の生活が始まりました。
しばらくはルンルンでした。ところが半年ほどすると、なぜか落ち込んでしまったのです。「なあ、信幸。俺はこれまで60年近く病む人のためだけに尽くしてきた。それがどうだ、今はゴルフなら好きなだけやれるが、世のため人のために何も役立ってない。この俺に生きている意味があるだろうか」と嘆くようになったのです。
ちょうどその頃、ケアホテル内で住人同士のトラブルがあり、最長老ということで調停役に引っ張り出され、何とか内輪もめが収まりました。それから居住者の会の議長に推され、「まあ聞いてくれ、信幸。この俺でもまだ役に立つのだ」と見違えるように元気になりました。
それから父は自分の考案した呼吸法を著書として出版し、それが評判になってゴルフ専門誌『ゴルフダイジェスト』に連載を持たせてもらい、さらには講演旅行で日本を駆け巡るという生活が始まったのです。
北里大学名誉教授
アンチエイジング医師団代表
NPO法人 アンチエイジングネットワーク理事長
NPO法人 創傷治癒センター理事長
医療法人社団 ウィメンズヘルスクリニック東京 名誉院長