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外科医の定年~ザウエルブルッフの悲劇~

外科医がメスを置くタイミングは人それぞれだが...
外科医がメスを置くタイミングは人それぞれだが...

   ザウエルブルッフは20世紀初頭のドイツ・ベルリン大学の外科教授で、世界で初めて開胸術を行った胸部外科の先駆者である。いまだに、その名がついた手術器具が使用されている。

   ところが名声の絶頂期に、胃袋を切除してつなぎ忘れるという失態を犯した。それは、認知症によるミスだったと言われている。その頃のドイツでは教授の権力は絶対で、助手は教授の過ちを指摘することは決して許されなかった。なんだか日本の某大学の体質に似ていますね。そして患者は死亡した。

   ベルリン大学はザウエルブルッフの職を解き、事件は隠蔽された。これもわが国でもありそうなことですね。

   だが、その後もザウエルブルッフのもとには世界中から患者が殺到し、彼は自分の家で手術を始め、アルゼンチンから訪れた甲状腺の患者を台所で手術して死亡させたことから、初めて事件は表沙汰となった。

   外科医の腕は年と共に衰えるのは致し方ないが、そのピークがどの辺かは個人差もあり、また、衰えの自覚は年と共に薄らいでしまう。僕は己の技術の下降曲線と世間的な評価の上昇曲線がクロスしたら、潔くメスを捨てるべきだと信じている。

   いかにして猫に鈴をつけるかなどと、周りの者をあまり悩ませるのはよろしくないと思う。

   僕自身、65歳の退官記念パーティで、親しいジャーナリストの一人、元朝日新聞社科学部の大熊女史にこう言った。

「外科医の場合は定年が必要ですよ」
彼女いわく
「先生、留学から東大に戻られたとき、なんとおっしゃったか覚えてます?」
「いや?」
そのとき僕は32歳だった。

   「外科医の旬は40代で、50過ぎたらそろそろ身の振り方を考えるべき」といったそうである。だが、実際に僕がメスを置いたのは退官した時だった。

   それほど人は年とともに自分が客観視できなくなるようだ、たとえ認知症でなくとも。ただ一つ、僕が主張したいのは判断力だけは経験の積み重ねだから、加齢とともに緩やかでも上昇曲線を保ちうるものと、希望的観測を持つ。ただし、これも認知症に邪魔をされなければの話だが。

   だから今後のアンチエイジングの課題の一つは、いかに老人の経験を継承し生かすかにあるのではないか、若者にうるさがられずに。

   そのためには老人もまた、「余人を持って変え難し」などとうぬぼれた使命感を捨てるべきであろう。[執筆/塩谷信幸 北里大学名誉教授、DAA(アンチエイジング医師団)代表]

医師・専門家が監修「Aging Style」

この記事の監修・執筆医師

塩谷 信幸
塩谷 信幸(しおや のぶゆき)

北里大学名誉教授
アンチエイジング医師団代表
NPO法人 アンチエイジングネットワーク理事長
NPO法人 創傷治癒センター理事長
医療法人社団 AACクリニック銀座 名誉院長

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