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3月24日:脂肪幹細胞移植による失明(3月16日号The New England Journal of Medicine掲載論文)

   神戸CDBの万代さん、高橋さん、そして神戸中央市民病院の栗本さんたちのチームはThe New England Journal of Medicine(NEJM)に、iPS由来の網膜色素細胞移植を行った一人の患者さんの経過報告を発表した。我が国のほとんどのメディアがこの論文を紹介しており、内容はここで紹介する必要は無いだろう。Yahoo Newsにも書いたように(https://news.yahoo.co.jp/byline/nishikawashinichi/20170318-00068846/)、このプロジェクトを最初の段階から見守り、「ゴールは結果にかかわらず正確に経過を記載し、臨床のトップジャーナルに論文を出すことだ」と檄を飛ばしてきた身としては、NEJMに論文が掲載されたことを喜びたい。

   代わりに今日紹介したいと思っている論文は、同じ号のNEJMに掲載されていた加齢黄斑変性症に対する脂肪幹細胞移植を受けた3症例の論文だ。タイトルは「Vision loss after intravitreal injection of autologous "stem ells" for AMD(加齢黄斑変性症治療の目的で行われた自己「幹細胞」硝子体内移植による視力喪失)」だ。

   この論文は同じ号のNEJMに万代論文に続いて掲載されている。しかも、タイトルに「黄斑変性症」、「幹細胞」と「視力喪失」という言葉が並ぶと興味を惹かれないはずはない。そして読んだ人全てが、アメリカで横行する「幹細胞治療」の実態に触れ愕然とすることになる。おそらく2編の論文を対比させて読者に考えさせたいという編集者の強い意図を感じる。

   もちろん、いかがわしい幹細胞移植を行ったグループが書いた論文ではなく、幹細胞移植による後遺症を治療したマイアミ大学医学部の眼科からの論文で、この治療を告発している論文だと言っていい。

   論文の内容は、おそらく同一の「幹細胞クリニック」で、5000ドルを払って加齢黄斑変性症の治療のために自己脂肪細胞を硝子体内に注射された3症例の淡々とした報告になっている。

   全ての症例で、脂肪細胞は吸引採取・洗浄後すぐに注射されており、注射直後から様々な副作用が現れ、マイアミ大学を含む眼科で懸命の治療が行われるが、一人は完全失明、残る二人は失明こそ免れたものの、視力が大きく損なわれたことが書かれている。

   副作用は多彩で、おそらく注射液に混じっていたと思われるトリプシンによる毛様小帯の障害まで起こっている。主なものは注射による眼圧上昇、網膜血管血流ブロック、そして網膜剥離などが複合して、懸命の治療にもかかわらず、視力が低下しているが、諸般の状況からみて移植された脂肪細胞自体が異常を引き起こしたと考えざるをえない。

   驚くのは、「幹細胞クリニック」という看板を掲げた医師が、前臨床研究での効果や安全性の検討がほとんどできていない治療法を、治験を登録するClinical Trial Governmentに登録し、その登録を見た患者さんが、治験の認識なく、しかも5000ドルも払って脂肪細胞移植を受け、治療したクリニックは治療による副作用に関して知らん顔だという点だ。

   確かに長年の前臨床研究、何重もの管理、何重もの審査を経てようやくたどり着いた高橋さんたちの症例の対極に、この3症例は存在しており、編集者の意図に賛意を表したい

   トランプ政権はFDAの規制を緩和し、薬剤や治療法をもっと経済原理に従わせようとしている様だが、その結果何が起こるのかを示す目的で、NEJMの編集者がこの論文を万代論文に続けて掲載したのだろう。その意味でこの論文は、万代、高橋論文とともに一般にも紹介すべき論文だと思う。

[NPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン(AASJ) 論文ウォッチ 2017年3月24日より転載]
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