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5月29日:新しい抗インフルエンザ薬の開発(5月23日号Cell Reports掲載論文)

   抗インフルエンザ薬というと、タミフルやリレンザを思い浮かべるが、その効果はベッドに寝込む日数が1日減るぐらいで、タミフルが世界一処方されている我が国の人々が信じているような大きな効果は期待できない。すなわち、新しいメカニズムの抗インフルエンザ薬の開発は今も期待されている。

   今日紹介するテネシー大学からの論文はインフルエンザ感染による細胞の代謝促進を抑えてインフルエンザを増えなくする薬剤の開発で5月23日号のCell Reportsに掲載された。タイトルは「Targeting metabolic reprogramming by influenza infection for therapeutic intervention(インフルエンザ感染による代謝リプログラミングを標的にした治療)」だ。

   この研究ではまず、インフルエンザ感染を併発した抗がん剤治療中の小児が受けたPET検査を再検討し、インフルエンザ感染により気管のグルコース取り込みが上昇していることを発見し、この詳しいメカニズムを培養上皮を用いて調べている。

   これまでどこまで研究が進んでいたのか私にはわからないが、上皮細胞にウイルスが感染すると、糖代謝、脂肪代謝、核酸代謝など多様な経路に関わる分子が上昇し、その結果乳酸合成、酸素消費、プロトン合成などエネルギー代謝が上昇していることを明らかにしている。これまでこのような変化は、自然免疫がウイルスにより活性化される結果と考えられていたが、この研究ではウイルス自体の細胞内での様々な活動が多様な代謝経路に依存しており、この要求に応える反応だと結論している。そして、ウイルスによりMycが活性化されることが、多様な代謝経路が活性化される一因になっていることを明らかにしている。

   この結果は、これまでのようにウイルス感染ではなく、細胞内のウイルス増殖に必要な代謝経路も抗ウイルス薬の候補になると考え、ウイルス感染した上皮の細胞死を防ぎ、ウイルス量を低下させる化合物を探索し、PI3K/mTOR経路の阻害剤として開発されていたBEZ235が強い活性を示すことを発見する。

   次にBEZ235のメカニズムを探索し、ウイルス感染後におこる代謝の上昇を維持するためのPI3K依存性のブドウ糖やグルタミン供給が制限されることによりウイルス増殖が抑制されると結論している。

   最後に致死量のインフルエンザウイルスを感染させたマウスの生存と、肺のウイルス量を調べ、この薬剤により生存率の上昇、ウイルス量の低下が認められることを明らかにしている。

   ではこの薬剤が、抗ウイルス薬として広まるかどうかだが、すでに抗がん剤として治験が進んでおり、安全性などのデータがあるという点では期待できるだろう。従って、当面は抗がん剤治療の最中にインフルエンザに感染した患者さんや、かなり重症のインフルエンザ患者さんで治験が行われると思う。

   さらに、ウイルスが細胞寄生体であることを考えると、今後はインフルエンザだけでなく、様々なウイルス疾患をホストの細胞代謝を標的にして制御する試みが進められるだろう。

   本当に効果の有る抗ウイルス薬は現在最も必要とされる薬剤の一つだ。

[NPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン(AASJ) 論文ウォッチ 2017年5月29日より転載]
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