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5月28日:自閉症の新しい治療可能性(Annals of clinical translation neurologyオンライン版掲載論文)

   自閉症は多くの遺伝子が関わるひとつの症候群で、私たちの性格が複雑なのと根は同じだ。現在の研究の焦点は当然神経結合や、神経細胞の増殖に向けられており、例えば自閉症の神経幹細胞が高い増殖能を持つという最近の論文などは、重要な進展だと思う。

   一方、原因は複雑でも共通の症状がある限り、全体に共通する異常も存在するはずだと考える研究も進んでいる。例えば腸内細菌叢が自閉症の症状に関わるという研究はその典型だが、細胞のストレスに対する防御反応がその背景にあるのではと考えて研究を続けてきたのがカリフォルニア州立大学サンディエゴ校のグループで、マウスモデルを用いて彼らの仮説の妥当性を示す結果を示し、新しい自閉症の治療につながるのではと期待されていた。

   今日紹介するのはこのグループがAnnals of clinical translation neurology オンライン版に発表した論文で、いよいよマウスを用いた前臨床研究成果を臨床治験に進めることができたことを宣言する論文だ。タイトルは「Low dose suramin in autism spectrum disorder: a small phase I/II, randomized clinical trial (自閉症に対するスラミンの低容量投与:小規模I/II相無作為化臨床治験)」だ。

   このグループは細胞がストレスにさらされると、ひとつの防御反応として細胞外へのプリン体の分泌が高まり、ストレス反応を持続させることに注目して研究を行っている。これまでの研究で、1)これと同じ代謝異常が自閉症で見られること、2)ATPを始めとするプリン体による神経刺激を抑えるとマウス自閉症モデルの症状が改善すること、を示し、自閉症の症状にはこのプリン体分泌上昇に伴う、神経興奮状態の変化が存在することを提唱してきた。

   細胞外に分泌されたプリンに対する神経反応を抑える薬剤スラミンを自閉症児に投与し、安全性と効果について調べたのが今回の研究だ。治験の規模は最小限で、DMS-5と呼ばれるマニュアルに従って診断された十人の自閉症児(4-17歳と多様)を無作為に五人ずつのグループに分け、片方にはスラミンの静脈注射、もう片方は生理食塩水のみを投与して、副作用、及び様々な神経機能のテストを行い、薬の効果を調べている。

   この研究の最も重要な目的はスラミンの安全性を確認することだ。スラミンはアフリカの眠り病の薬として使われているが、多くの副作用がある。ただ、今回の治験で使われる量はずっと少ないが、やはり副作用については細心の注意を払った検査が行われている。

   一回投与後に副作用としては、自覚症状はなく、自然に消失するものの、全例で発疹が観察されている。これ以外は対照群と比べて大きな変化はなく、治療に十分耐えられることが分かった。

   薬剤の血中濃度や代謝についても調べているが、詳細はいいだろう。細心の注意を払って最初の治験研究に望んでいる。

   肝心の結果だが、親から見ても言語能力や社会性が回復するのが実感されるらしい。自閉症の程度を測る最も信頼されるADOS検査で見ても、はっきりと改善が見られている。一方、生理食塩水投与では変化はない。

   以上のことから、スラミンは治療薬の重要な候補になったと思う。ただ、著者も強調しているが、自然に治るとはいえ、皮膚の発疹についてのより長期の観察が必要で、また本当の効果についても何年もかかる本試験を基に判断すべきで、この結果はほんの入り口にすぎないことだ。

   しかし、著者らの意気込みから見て国際治験が始まると思うので、ぜひ我が国も参加して、この可能性の妥当性を確かめてほしいと期待する。

[NPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン(AASJ) 論文ウォッチ 2017年5月28日より転載]
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