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6月17日:成長期のストレスがうつ病につながるメカニズム(6月16日号Scienceに掲載された)

   成長期に虐待などのストレスを受けると、成人後にうつ病を始め様々な精神疾患にかかりやすくなることがわかっている。しかし、なぜ一時期の虐待の効果が長期間記憶され大人になってから現れるのかについてはよくわかっていない。

   例えばフロイトは乳児期に母に向いた欲動を、積極的に無意識に押し込めたことが、成人後の神経症などの原因になると述べた。このような精神分析的解析は精神医学では下火になっているのではと危惧するが、患者さんが病気を理解するという意味でも重要だ。ただ誤解を恐れず言ってしまうと、成長期で起こる脳の変化の背景には必ず分子と細胞の変化が存在することも確かだ。

   今日紹介するニューヨーク・マウントサイナイ医科大学からの論文はマウスを使ってうつ症状につながる幼児期のストレスの分子基盤を調べた研究で6月16日発行のScienceに掲載された。タイトルは「Early life stress confers lifelong stress susceptibility in mice via ventral tegmental area OTX2(初期のストレスは腹側被蓋領域のOtx2を介してストレスに対する感受性を生涯高める)」だ。

   研究は脳の分子生物学としてはオーソドックスで、特に新味があるわけではない。定法に従って、授乳期前期(生後2−12日)、後期(10−20日)に母親から一定時間隔離するというストレスを与え、成長してから今度はラットなどマウスから見た社会的強者と同じケージに入れた時の、引きこもりや快感の喪失などいわゆるうつ症状の出方を調べている。結果は、授乳期後期にストレスを与えた時だけ、成長してからのうつ症状が見られることを確認している。

   この研究では、成長期のストレスで変化する場所は腹側被蓋領域(VTA)と決めて、VTAで成長期のストレスにより変化する遺伝子をリストしている。

   200を超す遺伝子が成長期のストレスで変化するが、この多くがなんとOtx2遺伝子により調節を受けている遺伝子であることを明らかにしている。

   専門外の人には、Otx2が出てきても特に驚きはないと思うが、発生学者には馴染みの深い遺伝子で、脳の発生に必須の遺伝子というだけではなく、視覚の可塑性など成長過程にも重要な役割があることが明らかになっている。発生学者からみれば真打登場とでも言えるだろうか。実際Otx2がストレスにより変化するのか調べる目的で、授乳後期にOtx2の発現を一時的に抑えると、成長後のうつ症状が出やすくなる。

   話は結局これだけで、残念ながらなぜストレスがOtx2遺伝子変化を誘導できるのか、また一時的なOtx2発現低下が長期間続く効果をVTAで誘導するのかは結局わからないまま終わっている。論文としては真打登場に救われて、Scienceに掲載されたようにも思える。

   とはいえ、脳の可塑性を考える時、Otx2が鍵になる分子として、視覚に限らず今後注目されていくような予感がする。

[NPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン(AASJ) 論文ウォッチ 2017年6月17日より転載]

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