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アルツハイマー病は老化促進とは違う(Nature Neuroscienceオンライン版掲載論文)

   記憶力が老化とともに低下することは、日々感じている。MRIをとると、確かに脳は萎縮しているのがわかるし、結局脳の老化もアルツハイマー病(AD)と同じで、脳細胞が失われて進んでいくのかとある程度覚悟している。確かに、ADの場合、内嗅皮質や海馬のように、早期から細胞の喪失が起こりやすい場所はあるが、我々はともするとADを老化が異常に促進している結果だと思いがちだ。

   今日紹介するペンシルバニア大学からの論文は、クロマチン構造を決めるエピジェネティックな変化の一つの指標、ヒストン4の16番目のリジンがアセチル化されたH4K16Acが、ゲノム全体にどう分布しているかを調べることで、ADが決して老化の延長として捉えられるものではないことを示した研究でNature Neuroscienceオンライン版に掲載された。タイトルは「Dysregulation of the epigenetic landscape of normal aging in Alzheimer's disease (アルツハイマー病では、正常の老化に伴うエピジェネティックな構築の変化の調節異常が見られる)」だ。

   この研究は最初からH4K16Acの分布に絞って研究を行っている。H4K16Acはオープンクロマチン状態に対応するヒストン標識で、老化とともに蓄積が進むことが知られている。また、老化を防ぐ遺伝子として知られるSIRT1はH4K16Acの脱メチル化作用があることから、このヒストン標識を追いかけることで、老化やADの進行を追跡できると考えている。

   事故などで死亡して解剖される若者、老人、そしてADの外則側頭葉を採取し、H4K16Acに結合するゲノム領域を網羅的に免疫沈降して調べている。

   期待通り、老化とともにH4K16Acと結合する領域の数は約25万カ所から、35万カ所へと増える。ところが「ADではさらに結合部位が増えるのではないか」という予想に反して結合部位が2万5千か所ほど減っている。

   これらの領域を詳しく調べると、 ADと正常老化ともに変化が見られるH4K16Ac結合サイト、老化で起こる変化と逆の変化が起こるグループ(dysregulatedと呼んでいる)、そして老化とは無関係に、AD特異的に起こる変化の3種類に分類している。また、各グループの領域ににより支配される遺伝子に一定の機能的傾向が見られる。とは言え今回グループ分けされた中のどの遺伝子が、AD発症に関わるのかは、明確には示されていない。

   面白いのは、これまでゲノム解析でADと相関がわかっていたSNPの領域は正常老化や、AD特異的にH4K16Acの結合が見られる領域と相関するが、ADでdysregulatedされている遺伝子とは全く相関しないことだ。これは、Dysregulationが正常老化に重なって起こると考えるとある程度理解できるが、ゲノムとエピゲノムの関係を知るための面白い課題だと思う。

   一方、ADと相関する遺伝子発現調節領域と相関を見ると、Dysregulatedな遺伝子も相関を認める領域が見つかる。 残念ながら、これら様々な相関を示す遺伝子が、ADとどう関わるか、この研究からは全く明らかではない。ただ、老化による変化と、ADによる変化をエピジェネティックに明確に区別できるようになった点は重要だと思う。ADでは細胞死のみ注目されるが、それに至る前の細胞の変化を理解することはもっと重要だろう。

   その意味で、この研究は何かの手掛かりになる可能性がある。

[NPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン(AASJ) 論文ウォッチ 2018年3月14日より転載]

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