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悩む人が増えている男性医療と不妊 辻村晃先生(順天堂大学医学部附属浦安病院 泌尿器科 先任准教授)

男性にも更年期があることは、多くの人に知られるようになってきました。 最近、男性医療の現場で問題になっているのは、男性の不妊です。泌尿器科が専門で、男性医療に詳しい辻村晃氏に患者さんの声や悩みは何かを聞きました。

辻村晃先生
辻村晃先生

塩谷 まず、男性医療についてですが、日本ではいつごろから盛んになってきたのでしょうか。

辻村 15、16年くらい前になります。男性医療はもともと、アメリカやヨーロッパで盛んで、65歳以上の方が元気に過ごすための医療でした。日本では、それよりももう少し若い、50〜60代の更年期(Late-onset hypogonadism:略してLOH症候群)を中心とした医療として広まりましたね。
今、国内にLOH症候群の可能性がある人は、600万人いるのではないかといわれています。

塩谷 よく、男性の更年期はうつ病にもつながるといわれますが、実際は、どうなのでしょうか。

辻村 「更年期外来」を受診された方の約8割は何らかのうつ症状があるというデータがあります。実際に、診察をしていても男性医療とうつとの関係は深いと感じています。そのほか、疲れやすい、筋力低下といった肉体的なものや、勃起不全、意欲低下など性的な症状もあります。

塩谷 男性の場合、更年期障害の治療のひとつに、男性ホルモンを投与する「テストステロン補充療法」がありますね。テストステロンがどのように働いて、治療の効果がでるのかわかっているのでしょうか。

辻村 テストステロンは、筋肉、骨、脳の海馬などにある「アンドロゲン受容体」に作用します。そして臓器を活性化させると考えられています。私は性機能を中心に臨床や研究をしてきましたが、男性ホルモンを投与すると性欲が上がるといった結果も出ています。

男性の不妊治療ができる施設は少ない

塩谷 今、先生のところには、男性からの不妊の相談も増えてきていると聞きました。不妊というと、女性側の悩みが多い印象ですが、実際はどうですか。

辻村 WHOの調査では、男性側に原因があるケースは24%です。男性と女性の両方に原因があるケースは24%。そのほかは、女性側に原因がある、または、男女共に問題ないケースです。

塩谷 どのような検査をするのでしょうか。

辻村 一番基本になるのは、精液検査です。子どもを作るために、適した量の精子があるか、精子の運動性や形は正常かどうかを確認します。

塩谷 以前、日本人の精子の数は1930年、40年代にくらべると、減っているのではないかと話題になりましたが、実際どうなんでしょうか。

辻村 以前は確かにそういわれていましたが、今の解釈では、過去と現在の検査方法に精度の違いがあり、極端に精子の数が減っていることはないと言われています。
それよりも、診察をしていると、思ったよりも無精子症の方がいるんだなと感じることがあります。
最近は、結婚するタイミングで、検査をしに来る方が増えました。データを取ってみると、検査に来られた方のうち、90%は精液に問題がありませんでした。しかし、1〜2%の方は無精子症で、だいたい100人に1人の割合で無精子症の方がいるとわかりました。

塩谷  無精子症になるきっかけは?

辻村 原因不明で、生まれつきの場合がほとんどです。血管の静脈瘤ができたことで睾丸の状態が悪くなるとか、おたふく風邪にかかり睾丸が腫れてしまったことで、無精子症になるということもありますが、稀なケースです。

塩谷 先生のほかに、男性の不妊症の治療ができる泌尿器科の医師は現状でどのくらいいるんですか?

辻村  日本生殖医学会が認定した生殖医療専門医の資格を持つ医師で、泌尿器科を専門にしているドクターは、44人(2016年取材当時・現在は48名)です。西は山口、北は札幌までいますが、関東や大阪に集中しています。

塩谷 それだと、地方にお住まいの方は、近くに専門医がいないかもしれませんね。その場合は、まずどこにいけばいいのでしょうか。

辻村 まずは、不妊症に特化した産婦人科を受診することをおすすめします。そこで、紹介してもらうのが良いと思います。

日本独特の性の悩み

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塩谷 患者さんはほかに、どんな悩みがありますか。

辻村  最近は、精子には問題なくても、性行為がうまくできないことで、妊娠できない悩みを持つご夫婦も増えています。

塩谷 うまくできないというのは、どういうことでしょうか。

辻村 EDが原因だったり、意欲がなかったりなど、原因はさまざまです。最初はセックスへの意欲はあったのに、勃起できない、射精できないなど、一度うまくいかなかったのがトラウマになり、それ以後、性行為ができなくなったという例もあります。

塩谷 どのくらい増えているんですか?

辻村 アンケートによる調査ですが、約20年前には3%だったのが、現在は13%まで増えたという報告がありました。
でも、不思議なことに、そういうご夫婦は仲が悪いかというと、そうでもないんです。性生活はうまくいかないけれど、子どもが欲しいと望まれて来院される方も実際にいらっしゃいます。

塩谷 そういうご夫婦にはどう治療されるのですか。

辻村 まずは事情を伺って、自然妊娠を望まれるか、人工授精を望まれるかを選択していただきます。近年は、人工授精を選択するご夫婦もめずらしくありません。 今、体外受精で生まれてくる子どもは、24人に1人と言われていますから、人工授精はもっと多いと思います。

塩谷 私が代表を務めるアンチエイジングネットワークで2015年の秋に4000人くらいの男女を対象にアンケート調査したところ、「加齢により気になるライフスタイルは何ですか?」と聞いたところ、性生活を選択した割合は、平均で男性7%、女性は1.8%しかありませんでした。日本人は海外に比べ性生活の意識が低いなと思いました。

辻村 今、日本の婚姻カップルの45%はセックスレスと言われていますが、それでも、夫婦仲は良く、離婚に至らないケースはたくさんあります。これがもし海外だったら、即離婚につながるでしょうけどね。

塩谷 米国の抗加齢医学会は、学会で議論される内容の3の1はセックスに関連した内容ですから、それを見ても意識の違いは大きいことがわかりますね。

辻村 世界の中で、日本は極端にセックスの回数が少ないと有名です。海外の先生から「なぜ、日本人は少ないのか」と聞かれるのですが、いつも返答に困ります。そういう民族というしかない。あとは、住環境の問題もあると思います。同じ寝室に子どもが寝ていて、セックスをする雰囲気になれないなどは、よく聞かれる悩みです。

塩谷 例えば、セックスがうまくできない原因が「パートナーを魅力的に思えない」という理由だったら、泌尿器科では治療は難しいですよね。いわゆる媚薬みたいなものはないんですか(笑)?

辻村 残念ながら、ありません。よく女性に勘違いされるのは、「バイアグラを飲んだら、男性はムラムラして意欲が高まる」ということ。実際は、そんなことはありません。バイアグラは酵素の阻害剤で、性的な刺激や興奮があったときの勃起力に差が出る薬です。効果は、3〜4時間です。最近は36時間効果があるシアリスという長時間型の薬もあります。
でも、その間に何も性的な刺激や興奮がなければ、何事もないままです。

男性不妊の悩みを解決する医療の充実を

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塩谷 新しくチャレンジしたいことはありますか。

辻村 一つは、勃起力を数値化して治療に役立てたい。過去に勃起力を評価する医療器具があったのですが、今は開発が止まってしまいました。患者さんの治療のためには、ペニスに輪ゴム状のものをはめて、硬さや持続力を数値化できる器具が必要だと思っています。

塩谷 ほかにはありますか?

辻村 あとは、妊活専用のサプリメントです。精子の数に問題があっても、今は精子を増やすような特効薬はありません。飲めば精子が活動的になるとか、数が増えるというのは、今は夢のような話ですが、効果が期待できるのではないかと注目されているビタミンEやビタミンC、コエンザイムなどの成分が、本当に男性の不妊に効果があるのかどうか、研究を進めています。

塩谷 先生の研究成果を待っている方がたくさんいますね。男性医療と日本のセックスライフの問題は、QOL向上のために引き続き考えていきたい問題です。
本日は、ありがとうございました。

医師・専門家が監修「Aging Style」

この記事の監修・執筆医師

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