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【ブラックペアン解体新書➁】医療監修 渡邊剛医師が徹底解説
"佐伯式"手術は、実際にもあるのか?

現在、TBSで放映中のドラマ『ブラックペアン』。心臓外科を舞台に展開される医療エンターテイメントドラマだ。
ドラマの中では、内野聖陽が演じる、神の手を持つ世界的権威の心臓外科医・佐伯清剛が登場する。彼は『佐伯式』と呼ばれる心臓手術を世界で唯一できる人物として描かれているのだ。心臓外科医の地位を巡り、ドラマの中で非常に大きなウエイトを占める佐伯式だが、ドラマでは、どんな手術法なのか詳しい解説はされていない。

そこで、『ブラックペアン解体新書』の第2回目では、この佐伯式について、ドラマの医療用ロボット監修としても参加されている『ニューハート・ワタナベ国際病院』の渡邊剛医師に話を伺った。

今は、手術法に人の名前はつけない時代に

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ニューハート・ワタナベ国際病院の実際の心臓手術の模様

佐伯式の話をする前に、少しだけ補足の話をしたいと渡邊医師は言った。

「今回ドラマで、『佐伯式』という手術法が出てきたことで、『渡邊式』とかないのですか?と質問される方がいました。
今、手術法を生み出した人の名前がついているものは実際には、ほとんどありません。80年代にブラジルの医師・ランダス・バチスタ氏が行った左室部分切除術を『バチスタ手術』と呼ぶようになり、日本では小説や映画などが出来て話題になったことから、そういう印象を持っている人が多いのかもしれません。 また、体操選手の場合は、白井健三さんのように"シライ"、"シライ2"と新しい技が生まれると名前がついていきますが、心臓外科の場合、それがスタンダートではありません。ただ、日本人は、他国に比べるとニックネーム的な通称名を好む傾向がありますね。例えば、正式には『大動脈基部置換術』と呼ぶ手術があるのですが、これを最初に報告したのがヒュー・ベントールという人だったため『ベントール手術』と呼ぶことが日本では多い。まぁ、カルテに記録するときに、大動脈基部置換術と書くよりもベントール手術と書いたほうが簡単だから、ということなのかもしれませんが(笑)。
ドラマでは、手術法をわかりやすく権威化するために、佐伯式という言い方で、存在感を出しているのかもしれませんね」

実際に、渡邊医師は、2003年に、人工心肺を使わず、心臓を動かしたままのバイパス手術(心拍動下冠動脈バイパス手術(OPCAB))を日本で初めて成功させていたり、日本では他にできる人がいない心臓アウェイク手術(自発呼吸下心拍動下冠動脈バイパス術)や外科手術用ロボット手術なども数多く行っている。それらの手術の成功率は、なんと世界一の99.7%。世界のベストドクターに選ばれ、各国の心臓外科医の憧れの存在だ。『渡邊式』はあってしかるべきと思うところだが、今の医療現場はそういうものではないというのだ。

心臓を止めずに行う佐伯式の難しさ

さて、話を佐伯式の手術法に戻すことにしよう。 ドラマ内では、非常に難しい、世界でできるのは佐伯教授だけというスタンスで描かれている。

「簡単にいうと、心臓の中にある"弁"の手術です。心臓の内側にある部分を修理する手術なので、心臓にメスを入れます。心臓は他の臓器と違って、拍動を繰り返し、血液が常に循環しています。そのままメスを入れれば、血液が溢れて修理する部分が見えにくくなります。また、心臓は動き続け、弁は扉のように閉じたり開いたりを繰り返しますから、手術をするのは非常に難しい。また、一番の問題として、心臓を開いて行う開心術は、心臓に空気が入るというリスクを伴います。ですから、一般的には、心臓や肺の機能の変わりをしてくれる"人工心肺"というポンプを使って、心臓を保護して止めた状態で、血液も心臓からなくした状態で手術をします。
ところが、今回ドラマでやっている佐伯式は、人工心肺は使っていますが、心臓は止めずに僧帽弁を手術しています。開心術ですから、空気塞栓による虚血性脳障害などを起こす可能性も高くなります。ドラマで神業と言ってますが、確かに難しい手術。心臓は非常にデリケートな臓器なので、心臓を止めずに作業をするのは誰もができることではないのです」

実際に存在する!? いや、現代医療はそれ以上の領域に

危険が伴う手術なため、"禁忌"とされていたこともあるという。実際に佐伯式とは呼ばれていないが同じ手術法は存在しているのだ。
しかも、渡邊医師は2週間前に、この佐伯式とほぼ同じ方法で、僧帽弁の手術を行ったのだというから、驚きだ。

「私もいろいろな手術を経験していますが、10年ぐらい前から佐伯式とほぼ同じ方法の手術は行っています。ただ、そんなに頻繁にできる手術ではありませんから、2014年にニューハート・ワタナベ国際病院に来てからまだ3例しか行っていません。トータルで何例かはわかりませんが適応は年1例くらいです。心筋がかなり傷んでいて、この方法しかないな、という場合の選択です。
心臓は動いたままでもリスクを伴いますが、オフポンプの止めた状態でもリスクがあります。心臓を動かすさい、勢いよく血管から血液が流れるときに、血管に付着していたコレステロールなどが飛び、脳血管障害、腎機能障害、出血、重度の不整脈などを合併する可能性もあります。特に、傷んでいる心臓の場合、それ以外にも損傷が大きくなる可能性があるため、心臓を動かした状態の手術を選択するわけです。実際に行うときには、心臓は止めませんが、カリウムなどを調節して、脈を遅くして、冬眠に近い状態にして行います。
ドラマでも二宮さん演じる渡海先生の手術の正確性と早さにフォーカスが当たっていますが、これは本当にそうです。開心時間は短ければ短いほどさまざななリスクは低下できます。渡海先生の描き方はそういう点では間違っていませんね」

渡邊医師は、脳血管障害などのリスクをより低くするために、心臓を止めないオフポンプ手術から、さらに先を行く『アウェイク手術(自発呼吸下心拍動下冠動脈バイパス術)』に挑み、日本で初めて成功させている。このアウェイク手術は、言葉通り、目が覚めた状態で行う手術だ。全身麻酔ではなく、胸に局部麻酔を打ち、患者は目が覚めた状態で心臓手術を受ける。全身麻酔ができない患者や、脳血管障害の危険がある患者などには、手術中、患者の状態を確認しながら手術を受けるメリットがあるという。
現実の心臓外科手術はドラマ以上にもっとすごいことになっているのだ。

次回『ブラックペアン解体新書』は、ドラマの第5話から登場するロボット手術について詳しく伺うことに。今回、ロボット医療監修として参加している渡邊医師だからこそ語れるロボット手術の今について、たっぷりお届けする予定です。(取材/文:伊藤学)

医師・専門家が監修「Aging Style」

【渡邊剛先生プロフィール】
1958年生まれ、東京都出身。手塚治虫作品の主人公、天才外科医ブラックジャックに憧れ医師を目指す。金沢大学医学部卒業後、金沢大学・第一外科勤務後、ドイツ・ハノーファー医科大学留学。2000件にわたる心臓手術を経験し、日本人として最年少の32歳で心臓移植執刀医となる。帰国後、日本初の人工心肺を使用しない冠動脈バイパス術「OPCAB」や手術支援ロボットを導入した心臓手術など世界の最先端医療を取り入れ世界のベストドクターにも選ばれている。患者の負担が少ない手術を追及し続け「天使の手」とも称される天才心臓外科医。金沢大学第一外科教授を経て、現在、ニューハート・ワタナベ国際病院の総長を務める。
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