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歯と歯ぐきのメンテナンスが全身の健康と美につながる 和泉雄一先生(東京医科歯科大学名誉教授)

日本人の約7割が罹患しているという歯周病。近年、口の中だけでなく、全身の病気にも関係していることがわかり、ケアの大切さが注目されています。今回は、日本の歯周病学・歯周治療学の第一人者である、東京医科歯科大学教授の和泉雄一先生にアンチエイジングと口腔ケアの関わりについてインタビューしました。

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塩谷 僕はいつも、抗加齢の3割は歯科領域が関わっていると思っているのですが、先生はどうお考えですか?

和泉 からだの中で一番、悪くなりやすいのが歯ですから、抗加齢を考えるときに歯科領域の問題は大きいと思います。
最近は、小学校から高校まで毎年、歯科検診があり、お口のケア方法を子どもの頃から教えられているので、むし歯率は下がっています。ただし、大学生や社会人になると定期検診を受ける率が低くなり、むし歯が増える傾向があります。

塩谷 むし歯などで削られた歯は、元には戻らないのですか?

和泉 基本的には、むし歯治療や歯ぎしりなどでいったん削られると、もう回復しません。唾液中のフッ素やリン、カルシウムなどが歯の表層につく「再石灰化」という現象がありますが、本当にごくわずかです。

塩谷 歯の健康には、「80歳で自分の歯を20本以上保とう」という「8020(ハチ・マル・ニイ・マル)運動」がありますね。いつ頃から始まったのですか?

和泉 1989年(平成元年)から始まりました。今ではかなり広まってきて、以前に比べて70、80代でも歯を維持している人が増えました。

塩谷 歯ぐきについてはどうですか?

和泉 歯ぐきは虫歯ほど管理されていないのが現状です。歯肉炎が多くなるのは、高校生くらい。20〜30代で徐々に悪化し、30代後半から40代になると、歯周炎として現れてきます。 年齢が上がるとともに悪化する人が多くなります。
今は体力的にも気持ち的にも元気な高齢者が多いですが、歯ぐきに関して言えば、健康な状態をキープしている人は少ないと思います。ですから、きちんと管理することが大切です。

塩谷 8020運動の成果で、歯が残っている人は増えたけれど、歯周病予防については、まだ意識が低いということですか。

和泉 はい。歯は残っていても歯周病が進行してグラグラするなど、状態が悪い方が多く、60歳以上では歯周病が原因で歯を抜くケースも増えてきます。

塩谷 なるほど。これからは歯周病予防も心がけていかないといけませんね。

歯医者さんで定期的にチェックを

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塩谷 口腔ケアは、セルフケアだと限界があるのではないかと。やはり時々、歯科で歯のクリーニングをしてもらった方がいいのですよね。

和泉 そうですね。歯科できちんとプロフェッショナルケアをしてもらってこそ、良好な歯が残せます。しかし、定期的に歯科に行って検査や診療を受けてメインテナンスしていくという意識は、まだまだ浸透していませんね。

塩谷 目安としては、年に何回ぐらい通えばいいですか?

和泉 もともと歯に問題がなく、歯ぐきも健康であれば、1年に1回ぐらいでも大丈夫です。歯ぐきも少し赤く腫れているとか、歯石がついているという人は半年に1回ぐらい。過去に歯ぐきや、むし歯の治療を受けていたという人は3か月に1回ぐらいを目安にしてほしいですね。
歯科での歯ぐきケアは、歯の周りの汚れを取ってきれいな状態にします。その後、毎日歯ブラシできちんとセルフケアしていても、またしばらくすると元の状態に戻ってしまうことが多いので、そうなる前に専門的なケアを受けてほしいと思います。

塩谷 そのような場合、保険は適用されるのですか?

和泉 保険適用はされません。健康な状態で口腔ケアを受ける場合には、大体、1回6,000〜10,000円くらいだと思います。

塩谷 歯周病についてもう少し詳しく聞きたいのですが、どのように進行していくのですか?

和泉 歯の周りに「細菌のかたまり」が付くことで、歯ぐきに炎症が起こり、赤くなります。次第に歯ぐきが弱くなり、歯から歯ぐきがはがれてきて、ポケットができるのです。

塩谷 歯周ポケットですか。

和泉 はい。その中にまた細菌がたまると、だんだん細菌の組成が変わってきます。ポケットの下の方は、空気が届かず嫌気状態になるので、「嫌気性菌」というのが主体になってきます。歯周病の「歯周病原細菌」もそこに含まれているのです。
初期に起こる炎症が「歯肉炎」で、きちんと治療すれば健康な状態に戻ります。次の段階は、歯肉がはがれ、歯を支えている歯し槽そう骨こつが少し溶けてしまう「歯周炎」になります。これも軽度の場合は治療すれば、わりと簡単に元に戻ります。

塩谷 では、「これは、なかなか治らないよ」と言われるのは、かなり重症になってから?

和泉 そうですね。麻酔をかけて歯ぐきを切開し、奥にある汚れまでキレイにとらなくてはいけません。

きちんとブラッシングすることが大切

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塩谷 よく、ポケットに毛先が届くというような歯ブラシが販売されていますが、それはどうですか?

和泉 実際にポケットに毛先が入るのは1ミリ以下だと思います。歯周ポケットの深さは、状態が悪いと4〜5ミリになりますから、ハブラシだけでは取りきれないでしょう。でも、ポケットの下まで毛先が入らなくても、上だけきれいにすることで、中の細菌の組成が変わり歯周病原細菌が減ることが分かっています。ですから、毎日、歯と歯ぐきの境目をしっかりブラッシングすることは大切です。

塩谷 歯ブラシの硬さや形状もいろいろあって迷いますが、以前、歯科で、「ブラシに凝るより月に1回新しいのに買い換えなさい」と言われました。

和泉 まさにそうですね。毛先が傷む前に買い替えることをお勧めします。基本的に1日3回、食後に歯磨きが理想なのですが、実際は難しいですよね。ですから、1日1回は10〜15分ぐらい時間かけて、きちんとブラッシングする。歯と歯の間まで、歯間ブラシを使ったり、フロスなどの補助的な道具を使ったりしてケアすることがおすすめです。あと2回は、簡単に汚れをとるだけでもいいので。

塩谷 電動ブラシはどうですか?

和泉 活用すべきだと思います。歯1本につき5秒ぐらいで磨けるので、全部で約5分。電動ブラシの場合も最後に、歯と歯の間をフロスなどできれいにした方がいいですね。歯と歯の間が広く空いている人は歯間ブラシがおすすめです。

塩谷 電動ブラシは、握力や手の動きが鈍ってきた高齢者には向いていそうですね。

和泉 そうなんですが、年をとってから突然電動ブラシを使おうとしても「振動が気持ち悪い」とか、「ボタンがたくさんあって、どれを押していいかわからない」という方もいらっしゃいます。その場合は、手動ブラシと電動ブラシ、交互に使うなど無理をせず続けられるように、患者さんにお伝えしています。

歯周病菌は血管の中に入り全身にまわる

塩谷 歯周病は全身にも関わる病気だと言われています。その理由を教えてください。

和泉 歯周病は、いわゆる細菌感染の病気です。歯周ポケット内にたまった細菌は血管の中に入り、菌血症(血液内に細菌が存在する状態)を引き起こします。健康な人なら、血管の中に菌が入っても、15〜20分ぐらいで殺菌されますが、疾患があったり、加齢によって免疫機能が弱くなっていたりすると、そのまま細菌が生き延びて全身に回ってしまいます。それが、血管内皮に付着すると、動脈硬化と同じような現象が起きることも分かっています。
糖尿病とも深いかかわりがあることもよく知られています。歯周病患者は糖尿病の罹患率が高く、また、糖尿病患者は歯周病が重症化しやすいというデータもあります。ほかにも、歯周病は早産や低体重児産にも関わっています。

塩谷 歯周病は細菌の供給源になっているんですね。腸内にも細菌がたくさんいますが、歯周病との関わりはあるのでしょうか。

和泉 腸内細菌も口腔の細菌に関係しているようです。腸内細菌の状態が悪くなると、口腔内の細菌叢の状態も悪くなり、その逆もあると。特に、口腔内に慢性的な炎症があると悪影響を及ぼしやすいと言われています。

噛み合わせも重要

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塩谷 歯の噛み合わせも全身に影響があるといわれていますよね。

和泉 全身の健康と噛み合わせにはかなり密接な関係があります。歯周病という炎症の要因と、噛み合わせの要因は、常に一緒に考えていかなければならないと思っています。
噛み合わせが悪いと、1本ないし2本の歯にものすごく強い力がかかる。そうすると、その歯や周辺の組織が一気に悪くなり、歯周病が急速に悪化するからです。「歯ぎしり」や「くいしばり」などで数本の歯に力が集中し、その力が強い場合は、顎骨の骨折の危険も出てきます。我々は炎症のコントロールと、力のコントロールといっていますが、それを両方調整していかないとダメなんです。

塩谷 僕も歯にひびが入った経験があります。そのときに「就寝中の歯ぎしり」が原因ではないかと言われました。寝ているときにはどうしようもないですよね。

和泉 今は、数本の歯に力が集中しないようにするマウスピースがあります。あと、重たい荷物を持つときや、緊張したときに歯をくいしばってしまう方も注意が必要です。
そういう患者さんには、日常的に歯をくいしばっていないかチェックしてもらうようにしています。例えば、「ドアのノブを見たときに、必ず歯をくいしばっていないか意識してください」と指導して、1日のうちに何度か「いい状態」にしてもらうように伝えています。
歯に負担がかからず、いい状態なのは、唇は軽く閉じ、上下の歯は数ミリ程度、軽く離れていることです。

塩谷 アンチエイジングを考えると、歯を残すことの次に、見た目を美しくしたいということもありますよね。歯のホワイトニングに興味を持たれる方も増えています。

和泉 ホワイトニングには、漂白剤などの強い薬を使いますから、歯のためにはあまり良いとはいえません。患者さんには、ホワイトニングを希望される方もいらっしゃいますが、私は過度のホワイトニングはあまりおすすめしていません。
 大切なのは、ホワイトニングをする前に、歯周病や虫歯など口腔内のトラブルをしっかり治療しておくこと。トラブルがある状態では、ホワイトニングの効果が十分に出ないこともあります。

塩谷 美しさも土台となる歯ぐきと歯の健康から。今後は、歯周病ケアの大切さを多くの方に意識してもらうことが急務となりますね。そのために、我々に何ができるか、今後も一緒に考えていただきたいと思います。今日はありがとうございました。

この記事の監修・執筆医師

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