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トップアスリート担当医師から学ぶ、ケガ・疾患に負けないスキンケア 上田由紀子先生(ニュー上田クリニック院長、国立スポーツ科学センター)

健康寿命を延ばしたいと運動を始める人が増えていますが、運動時のスキンケア対策はあまり意識されていません。
今回は、国立スポーツ科学センターでトップアスリートたちの肌を診察してきた、皮膚科医でスポーツドクターの上田由紀子先生に、スポーツと皮膚科学の結びつきについて伺いました。

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塩谷 上田先生がスポーツ医学と関わるようになったのはいつごろからですか?

上田 1984年、新浦安にクリニックを開業したころからですから、もう30年以上になります。
きっかけは、大学の同期で、現在、国立スポーツ科学センター長の川原貴さんからお声かけいただき、スポーツ医学の必要性を一緒に考えていくことになりました。実際に医師としてスポーツと関わってみると、皮膚疾患の治療や予防について相談にのることがとても多いと感じました。

塩谷 最初はどのようなことをしていたのですか?

上田 当時、実業団などに在籍するトップアスリートの選手たちは、皮膚の問題で悩んでいるのに、診療時間内に受診する暇がないと困っていました。それを解決できれば、パフォーマンス向上にも役立つのではという考えで、合宿場に往診したり、治療の相談にのったりしていました。
遠征先の選手から「ひどい日焼けで、水ぶくれになってしまったのですが、どうしたらいいですか?」と電話がかかってきたこともありましたね。そんなことから、皮膚科医としてスポーツ選手を陰で支えるようになったんです。
それで、トップアスリートを対象にした国立スポーツ科学センターを設立するという計画が出たときに、皮膚科の分野で役に立てればと思い参加しました。

アスリートは原因をなくすのが難しい

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塩谷 国立スポーツ科学センターがオープンしたのは、2001年でしたね。センター内のクリニックに受診する方は、どのような疾患が多いんですか?

上田 スポーツ選手がかかる代表的な皮膚疾患は、マメ、タコ、靴擦れです。これらは種目を問わず起きやすい疾患で、特にバットやラケットなど用具を使う種目や、靴を履いて行う種目に多くみられます。それだけで文献を一つまとめられるくらい、よくある現場のトラブルです。

塩谷 スポーツをしていない人にも多い悩みですね。アスリートへの治療は、一般の人と違いがあるのでしょうか。

上田 基本的には、一般的な治療法を用います。簡単に言うと、原因があれば取り除くこと。たとえば、「マメやタコが足にできるなら、靴を替える」「ラケットを持たない」など。でも、スポーツ選手の場合、単純にそうはいきません。靴や用具に原因があったとしても、それをうまくコントロールして競技を続けなければいけないので、治療にも工夫が必要です。また、選手たちは、大会にベストなパフォーマンスでのぞめるように調整したいと思っています。トレーニングを休めば治るような疾患の場合でも、練習をゼロにするわけにはいきませんから、その点を考えながら治療するのは、スポーツドクターの特徴といえるかもしれません。

塩谷 スポーツ用品も選手が使いやすいように進化しているのではないですか。

上田 そうですね。各メーカーで研究開発が進められています。痛くなりにくいとか、水虫になりにくい靴の開発なども進んでいるようですよ。

塩谷 衣類も素材がいろいろあるとか。

上田 ユニフォームや下着も、汗を通すような化繊が改良されていて、選手たちはより快適に競技できていると思います。女性の場合はブラジャーが擦れる、動きにくいといった問題がありましたが、今はよく研究された商品も出ています。また、水泳競技ではゴーグルに使われているゴムで皮膚炎を起こすトラブルがあります。皮膚科では「ゴーグル皮膚炎」という病名もあるほど多い疾患なのですが、今は、皮膚炎になりにくいゴーグルが開発されています。

体育の授業やプールでも日焼け止めを使うべき

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塩谷 ほかにどんな疾患が多いですか?

上田 水虫、タムシ、イボなど。細菌、真菌、ウイルスなどによる感染症です。
意外に知られていないのですが、レスリングの競技は、体重計に乗る前に、医師によるメディカルチェックがあり、感染症があると出場できません。試合前に既定の体重まで減量をしていると、体に負担がかかるので感染症にかかりやすくなります。ですから、選手の多くは、試合の前に皮膚科を受診して感染症がないか、チェックしています。

塩谷 野外で行う競技だと、紫外線の問題もありますね。

上田 その通りです。紫外線をたくさん浴びると体が疲れて、パフォーマンスが落ちます。免疫力も落ちるので、ヘルペスなどの病気が出やすくなります。しかも、日焼けで体がヒリヒリしている状態ではマッサージが受けられず、筋肉の疲れもとることができません。

塩谷 日焼け止めの使用について、教育現場での理解は進んでいるんでしょうか。

上田 昔に比べればだいぶ進んできたと思いますが、まだ遅れているほうだと思います。化粧品がNGという学校は、いまだに日焼け止めが禁止されているところもあるでしょう。また、プールの水が汚れるという理由で禁止しているところもあるようです。
その状況を変えようと、2015年9月に日本臨床皮膚科学会と日本小児皮膚科学会が共同で、学校生活における紫外線対策の指針を発表しました。実験データを確認し、日焼け止めで水質汚濁になる心配はないことも明らかになりました。学会の先生方による普及活動のおかげで、東京都内はほとんどの学校で日焼け止めNGではなくなったと思います。
屋外の部活動でも日焼け止めの必要性はあまり考えられてきませんでした。実際、2008年に高校野球の選手たちを調査したときには、日焼けに対する意識は、先生も生徒も高くありませんでした。

塩谷 プロのスポーツ選手では、どうですか。

上田 日本女子サッカーチーム「なでしこ」の選手たちは、リーグ発足当時は、みんな紫外線の影響など気にしていませんでした。その他の競技でも、以前は男女問わず日焼け止めを使っていない選手が多かったのですが、今は選手やトレーナーの意識が変わりました。「日焼け止めを塗ったほうが楽」だと実感したのだと思います。10年くらい前からは、顔だけでなく足や腕など肌を露出している場所には必ず日焼け止めを塗るように指導しています。
日焼け止めの効果は、ほかにも期待されていて、高校生の部活動における例ですが、日焼け止めを全身に塗って練習をしたところ、前年よりも熱中症や皮膚の奥が化膿する蜂窩織炎(ほうかしきえん)が減ったという報告がありました。

塩谷 運動選手に指導する際の、スキンケアの基本は?

上田 運動選手に限ったことではありませんが、「洗う」、「保湿」、「紫外線予防」の3つの柱があると考えています。
スキンケアは肌のケアだけでなく、心のケアでもあるというのが私の信念です。毎日、自分で肌のコンディションを確かめ、きちんと同じケアをすることによって、心の状態も把握できる。それが、ケガや病気の予防にもなると考えています。

スキンケアから感じる不調のサイン

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塩谷 具体的に教えてください。

上田 朝起きてから顔を洗い、化粧品をつけて一日が始まります。そして、夜はしっかり保湿をしてから寝る。それができているときは心も体も健康だということです。いつもやっていることが、できていないときは不調のサイン。思わぬところでケガをしないように、心が忙しいか体が疲れているか、自分自身を振り返ってみてね、と選手に伝えています。

塩谷 毎日のスキンケアが、スポーツ選手の心の健康にも役立つとお考えなんですね。ところで、先生は企業と協力して化粧品の開発などにも携わっていらっしゃるとか。これまでに実用化されたものは? 

上田 ひとつは、日焼け止めです。選手たちのアンケートをフィードバックして企業とともに考えてきました。
もとは医療関係者用に開発されていたものをベースに、べたつかなくて保湿力が高いハンドクリームを開発した例もあります。手を使う競技では、手荒れが悩みのひとつです。ハンドクリームをつけたくても、手が滑ってしまうので使えないという選手の悩みに着目しました。
また、テーピングテープのかぶれを防ぐために、従来は、はがした後に保湿するしか方法がありませんでしたが、貼る前に塗っておくと、テープの密着度が高まるといった保湿剤も生まれました。

塩谷 まさに、アスリート特有の悩みに応える商品づくりですね。最近の傾向はいかがですか?

上田 医療用からスポーツ用へ改良された製品が増えてきたという印象があります。東京オリンピックを控えていることもあるのかもしれませんが、各メーカーがスポーツに着目した商品開発に取り組んでいることは、選手たちにとって幸せなことだと思います。
医師の立場から見ても、新しい研究が進むことは、治療しやすくなることにつながるので、企業との連携は今後も必要だと思っています。

塩谷 運動の健康効果はどうお考えですか。

上田 アスリートを診ていると、30歳でもひざを痛める人が多いです。一般の人は、若いときにひざの軟骨を減らすような、激しい運動は避けた方がいいと思っています。
運動が重要なのは、筋肉が減り始める50歳くらいから。筋肉が一定量あることが大切なので、自分の体力に見合った筋肉量を維持する運動を続けることをおすすめします。

塩谷 先生は何か運動されていますか。

上田 私は運動が苦手なので、無理なく筋力を維持できるものがないかと探しました。そこで、パワープレートⓇを使っています。10〜15分程度のトレーニングで、ジムでの1時間分の運動と同じ運動効果が期待できるなど、短時間で効果的な筋力トレーニングが可能なマシンで、クリニックに来る患者さんにも結構人気があるんですよ。

塩谷 本来、運動は皮膚にはいいものなんですよね。

上田 汗をかくことによって、新陳代謝がよくなるし、毛穴から老廃物の排出も促されます。逆に、スキンケアが筋肉に与える影響も注目されていて、皮膚を保湿すると、浅い筋肉に影響して柔軟性が増すと考えている研究者もいます。

塩谷 アスリートたちの経験から得られた知見は、一般の人にも応用できそうですね。医療と企業の協力もますます深まっていくでしょう。今日は、ありがとうございました。

この記事の監修・執筆医師

上田 由紀子
上田 由紀子(うえだ ゆきこ)

ニュー上田クリニック院長、国立スポーツ科学センター

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