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最期まで幸せであるためのケアとは何か?(後編)
真田弘美先生(東京大学 老年看護学・創傷看護学)

世界に先駆け寿命が延び、高齢化が進む日本。看護や介護にも新たな課題も出てきています。死を迎えるその時までいかにその人らしく幸せに生きるかについて、老年看護学・創傷看護学を専門にしている東京大学の真田弘美教授にうかがいました。高齢者のQOLを高めるために今、必要とされているものは何か。老年看護の実際とスキン−テアについてうかがった前編に引き続き、後編では老年看護のフィロソフィ(哲学)、今の日本で年を重ね生きていくことについてお話しいただきました。

人型ロボッも高齢者を助けるツールに
人型ロボットも高齢者を助けるツールに

真田 加齢による変化が著しい高齢者の幸せは何か考えることがあります。その時に、高齢者への看護(老年看護)のフィロソフィ(哲学)にたどり着きます。

塩谷 フィロソフィとは?

真田 老化は「一生成熟の過程」であり、生まれてから亡くなるまで、人は一生成長するし、成熟していく。それが、老年看護に不可欠な考え方だと感じています。
老いるということは、よいことばかりではないかもしれませんが、それも含めて成長の過程だと考えていきます。人の尊厳を最後まで守り続けながら、幸せに生きて、幸せに亡くなっていく。体は衰えても心身ともにその状況を受け入れ、適応しながら成熟していく。それが老年看護学のフィロソフィです。

塩谷 その答えにたどり着いたきっかけは?

真田 まずはエリクソンの発達理論、そして自分の経験も大きいといえます。最近、白内障の手術をしました。目が見えにくくなってきたり、歯が悪くなってきたりすると、老化を自覚するとともに、不調に適応する努力をする。見えなければ、どうやったら見えるようになるのか、自分なりの工夫をしますよね。そうして老いに適応していく過程が成熟なんだと、60歳になって思うようになりました。そして、いかに死を迎えるか自分を見つめていく力が出てきました。

塩谷 先生の立場から見て、今、日本が抱える問題で、懸念されていることは何ですか。

真田 若い人たちのお年寄りに対する尊敬の念が薄れていることです。
先日、2025年問題について子どもたちに聞くと、「おじいちゃんたちが生きていることが問題なんじゃない?」という意見が出たと聞きました。子どもたちがお年寄りをそんな風に見る社会では将来がありません。

塩谷 同感です。それを防ぐためには、どんなことが必要でしょうか。

真田 幼いときから生きること、死ぬことをしっかり教えることが大切だと思います。そして、高齢になったら、「いかに死を迎えるか」を考えること。自分の思うように、幸せに亡くなっていく人を増やすことが、今の日本に求められています。

塩谷 そのために、具体的に考えられることは。

真田 オーストラリアのパースでは、公共の施設や病院などに子どもから高齢者まで誰でも見られる「死に行く過程」というパンフレットがおいてあります。日本との宗教の違いなども影響しているのかもしれませんが、子どもの頃から人の死とはどういうものかという教育がなされているのだと思います。
パースの非常に大きな在宅医療のNPOによると現在、在宅死は60%。日本では10%程度です。小さい時におじいちゃん、おばあちゃんを自宅で看取るという経験がない。人が亡くなるとはどういうことか、しっかり体験する場が必要かと思います。そうすれば、高齢者を理解し、敬意をもって接することができようになると思います。

塩谷 高齢者自身も意識を変える必要がありますね。

真田 エンドオブライフの状況にあるとき、漫然と死を待つのではなく、自分自身の生きる目標を持つことが大切だということを在宅療養者から学びました。終末期ケアにあたる私たちも、患者さんと一緒に、例えば「孫の何歳の誕生日まで」など目標をたてることがあります。

塩谷 これからの介護や看護に必要なことは。

真田 いろいろありますが、一つにはセンサー技術などを駆使したロボティクス(ロボット工学)を看護に取り入れること。ロボットの良さは、24時間体制で働いても疲れないということ。そこで今、ロボティクス看護学という分野を作り研究を進めています。その一例は、産学連携によるロボテックスマットレスの開発です。マットレスが個々の体に加わる圧力を感知して、床ずれが予防できるように自動で調整する、さらに寝返りも支援します。
あとは、認知症などで訴えられない人たちの痛みを客観的に測れるものがあるといいですね。誤嚥性肺炎を起こさないよう、気管に異物が入ったら知らせてくれる機器や嚥下機能を保つための運動器具なども、最期まで食べていただくために役立つと思います。

依存と自立のバランスを意識する

塩谷 ロボットというと、先生の研究室には、「ペッパー」がいますね。

真田 ペッパーのような人型ロボットも、高齢者の生活を助けるツールになると思っています。特に一人暮らしの方にとっては、常に話し相手がそばにいることは、刺激になります。高齢者の看護で必要なのは、その人をより理解できるようなパーソナルヒストリーなので、パーソナライズされたソフトがあるといいと思っています。
それに、ホームホスピタルの考え方もこれから重要になります。そのためには、ICT(インフォメーション・コミュニケーション・テクノロジー)の活用が不可欠です。今は、医療機関でも病床を減らし、できるだけ在宅で看るという方向になっています。

塩谷 そうはいっても、老年看護のお世話にならないようにするには、どうしたらいいでしょう?

真田 一人で生きていく自覚、つまり依存と自立のバランスを常に意識することです。自分でできるところは自分でする。けれど、できないことは他人に依存することを躊躇しない勇気も必要です。もうひとつは、週1回以上外出しない「閉じこもり」にならないようにすること。閉じこもりの原因は、転んで足を痛めたり、トイレが心配で出かけられなくなったりすることなどです。閉じこもりになると、食事のバランスが乱れ、脱水や栄養不足になりやすく、体が弱ってさらに外に出たくなくなるという悪循環に陥ってしまいます。健康な高齢者が一人で生きていくためには、家族との繋がりの場、社会と繋がる場を自ら持つ自立同様に自律も必要だと信じております。

塩谷 若い世代の人も、いつか自分にも老年期が来るんだ。特別なことだと思わずに、自然に受け入れることが大切ですね。今日はありがとうございました。

医師・専門家が監修「Aging Style」

この記事の監修・執筆医師

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