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【ブラックペアン解体新書⑤】医療監修 渡邊剛医師が徹底解説 最終回直前 ドラマと現実の違いを一挙まとめ

ついに、最終回を迎えるTBSの医療エンターテイメントドラマの『ブラックペアン』。医学会まで動かした、治験コーディネーター問題などを起こしながらも、後半視聴率は16%越えをキープしているという。しかしこのドラマ、医療現場からは、「ありえない」、「笑える」といった声が異例なほど多いドラマでもあった。
最終回直前に、そのあたりの問題点を再検証してみようと思う。
今回も解説は、ドラマの医療用支援ロボット監修として参加されている『ニューハート・ワタナベ国際病院』の渡邊剛医師に伺った。

ニューハート・ワタナベ国際病院でのロケの風景より
ニューハート・ワタナベ国際病院でのロケの風景より

現実とは異なる① 治験コーディネーター

日本臨床薬理学会から抗議声明が提出された治験コーディネーターの描かれ方。医師と高級料理店にたびたび会食に行ったり、金品を渡す、私服であらゆるところに現れる。きちんとした説明もないまま患者に新しい機器での手術を同意させるなど、実際の治験コーディネーターの姿とはまったく違うスタンスで描かれていた。

「ここまで、実際と違う形で描くなら、誰が見てもわかるような嘘の形で描くべきだったのでは、というのが僕の感想です。メロンに超高額な請求書を渡す医療ドラマのように、見るものがジョークとして受け取るような描き方であれば、フィクションで済んだのかもしれません。ですが、治験コーディネーターという職業自体、一般の方にはまだまだ馴染みが薄い。最近、医療現場で活躍が広がっている仕事です。今回、私は医療用支援ロボットの監修をしましたが、このロボットは、ダビンチという実際にある機械を使い、実際にある技術もみせています。そうなると、治験コーディネーターという聞きなれない職種も、こんな感じなのでは? と思ってしまう人がいるのは当然だと思います。このあたりもっと丁寧に描くべきだったと思いますね」

と渡邊医師はまず前置きをした。

そもそも、治験コーディネーターは、新しく開発された薬剤や医療機器が医療現場で有効かつ安全に使用できるかを確認するために、患者の協力によって行われる臨床試験「治験」を行うコーディネーターのことだ。医師と製薬企業・医療機器企業、さらに治験をうけてくれる被験者の間を調節する非常に重要な専門職だ。ドラマのようなフリーで働く人もいるが、多くは医療機関や製薬会社、医療関係の企業と契約して、業務を行う人も多い。業務は多岐に及び、治験を始める準備から被験者への対応、治験で上がってきた調査データの収集や整理などを、医療現場と連携して、細かく報告しながら行っていく。ドラマのように医師たちと個人的に会食をするなんてことは、倫理的にも時間的にもありえないのだ。

「実際に、心臓外科で治験コーディネーターさんと接することはあまりありません。多いのはどちらかと言うと薬の治験が多い内科だと思いますね。ロボットなどの機械で治験コーディネーターと仕事をしたのは、僕の場合、数回しかありません。医療用支援ロボットの場合は、メーカー治験がほとんどでした。さらに、治験コーディネーターが勝手に患者を決めるなんてことはまずありえない。原作にもないので、どうして治験コーディネーターになったかは知りませんが、治験コーディネーターという名を語った別の職種としてみるのが正解かもしれませんね」(渡邊医師)
医療雑誌と編集長の描かれ方にも疑問?
医療雑誌と編集長の描かれ方にも疑問?

現実とは異なる② 医療雑誌編集長の立ち位置

加藤浩次演じる「日本外科ジャーナル」編集長の池永。この雑誌に論文を載せることに教授たちが躍起になり、インパクトファクターを争う、という設定がドラマのひとつの核にもなっている。

「でも、実際には日本の雑誌で、インパクトファクターはつきません。日本語の論文が登場しますが、日本語の論文でインパクトファクターがつくものはほぼゼロと思ったほうがいいでしょう。こちらの1回目の解説でもお話しましたが、海外の名だたる医学雑誌でなければインパクトファクターはつかないのです。そして、インパクトファクターは雑誌のランクを示すものですから、今回のドラマのように同じ雑誌に並列に並んだ論文では、雑誌のインパクトファクターが同じなので差は付きません。実は症例報告はあまり価値がないという面もありますね。
さらに、違和感があるのは、編集長の立ち位置です。医学雑誌の編集長は、ピアレビュー(※)をする査読者とは編集会議で会うことはあっても、論文の投稿者に個人的に会ったりするということはありえません。さらに、日本外科ジャーナルの編集長は、元医師でもなく、医療に関しては素人であることがわかりました。素人がこういった医療雑誌の編集長をやっているのは聞いたことがありませんね。一般的には、その道の一番の人、学会長あたりがなるのが普通です。さらに、その素人の編集長が患者を仕込む、ということは現実的にはないし、あったら問題になると思います」(渡邊医師)

現実とは異なる③ 手術現場の描かれ方

今回、二宮和也が演じる渡海医師は、ワンマンで孤高の心臓外科医という描かれ方をしている。手術でトラブルが起きると登場し、瞬く間に自分の腕で成功させてしまう。渡海と渡海の助手のようにいつも寄り添う看護師の猫田以外は、手術を呆然と見ているばかりだ。

「確かに、医師の腕、技術は手術では重要です。そういった意味では、描かれている渡海の技術はすごいのでしょう。そして、その渡海を完璧にアシストしているオペナースの猫田の働きも素晴らしい。でも、実際の手術ではもっとチームプレーです。事前にしっかりと準備し、こちらのタイミングに合わせて、器具を素早く出すオペナース、そして、手術中の患者の状態に合わせて、さまざまな薬剤を調節する麻酔科医など、手術現場はまさに阿吽の呼吸で連携できるチームプレーが必要になります。渡海の技が素晴らしくても、あの手術現場には、チームプレーはありません。後半、小泉孝太郎が演じる高階医師とのチームプレーが生まれてはいますが、麻酔科医などがきちんと描かれていないのも残念ですね。
また、オペに立ち会うオペナースは、オペに立ち会うことが仕事なので、普通の病室看護業務は行わないことが多いですね。オペは重労働なので、そのあたりの役割は分かれています。そのあたりの描かれ方も曖昧でしたね」(渡邊医師)

現実とは異なる④ 機械か人間かの対立構造

ロケ協力でダビンチを操作する渡邊医師(左端)
ロケ協力でダビンチを操作する渡邊医師(左端)

ブラックペアンには、「ロボットの技術は人を越えるのか」という大きなテーマがある。これはドラマの中で何度となく出てきている。9話ではついに、国産ロボットを使って遠隔手術を行うシーンが描かれたが、基本はロボットとは対立構造だ。

「9話で渡海が国産の手術支援ロボットを遠隔操作したシーンが描かれていましたが、実際に既に2001年に、光ファイバーの海底ケーブルを通し米国ーフランス間で行われた大陸間横断の胆嚢手術、通称「リンドバーグ手術」が行われています。つまり、現実の方が大分早く進んでいるのです。
更にこちらの4回目でも述べた通り、ロボット手術をするまでには、研修や経験を踏まないといけないので、今までロボットを否定してきた渡海がすぐに使えたことには、驚きと疑問が残りました。 まぁ、それはさておき、ドラマでは、常にロボットと人間とが対立構造で描かれます。でも、現在の医療現場では、ロボットか人か、という論争はありません。ロボットというと、ボタンひとつでまるで人の手を介さず、機械が手術をするのだと思う方もいるのかもしれません。でも実際には、現在使われている機械、ロボットは手術の支援をするだけです。見えにくい深い部位を見えやすくしたり、人の手ではしにくい細かい作業をやりやすくする、といった支援をしているわけです。それを動かすのは、医師の技術です。AIでロボットを動かす時代も来るでしょうが、まだそういう段階ではありません。ですから、ロボットは信用できない、という対立構造は現在の医療ではありません。実際に、手術支援ロボットのダビンチは、保険適応になりました。それだけ成果を上げ、多くの医療機関が導入しているということでもあるのです。確かに、ドラマではロボットをしっかり使える医師があまりに少なかった(笑)。ドラマを見て、ロボット手術は危ない、という誤解だけは持たないでいただきたいと思いますね」(渡邊医師)

※ピアレビューとは:査読。ジャーナルが論文をスクリーニングする手段として取り入れられるプロセスで、その学問分野の専門家によって研究の評価をすること

医師・専門家が監修「Aging Style」

【渡邊剛先生プロフィール】 1958年生まれ、東京都出身。手塚治虫作品の主人公、天才外科医ブラックジャックに憧れ医師を目指す。金沢大学医学部卒業後、金沢大学・第一外科勤務後、ドイツ・ハノーファー医科大学留学。2000件にわたる心臓手術を経験し、日本人として最年少の32歳で心臓移植執刀医となる。帰国後、日本初の人工心肺を使用しない冠動脈バイパス術「OPCAB」や手術支援ロボットを導入した心臓手術など世界の最先端医療を取り入れ世界のベストドクターにも選ばれている。患者の負担が少ない手術を追及し続け「天使の手」とも称される天才心臓外科医。金沢大学第一外科教授を経て、現在、ニューハート・ワタナベ国際病院の総長を務める。
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