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【ブラックペアン解体新書⑥】ドラマ医療監修から考える 医療従事者とメディアとの関係とは?

今や刑事ドラマ以上に確実に視聴率が稼げるのは医療ドラマ!?

日本臨床薬理学会から治験コーディネーターについて抗議表明が出されるなど、何かとお騒がせだったTBSドラマ『ブラックペアン』(TBS)が6月末終了した。治験コーディネーターはもちろん、医療現場からは、苦笑や失笑する場面も多く、さまざまな意見が上がったが、最終回の視聴率は18.6%を記録し、2018年春ドラマ視聴率ランキングでは1位という結果に終わった。

ダビンチ手術取材の撮影風景(ニューハートワタナベ国際病院にて)
ダビンチ手術取材の撮影風景(ニューハートワタナベ国際病院にて)

医療ドラマは、日本はもちろんアメリカでも韓国でも、ドラマジャンルの中では定番だ。確実に視聴率を取れるという意味では、定番というよりも王道と言ったほうがいいかもしれない。
ここ最近の日本のドラマ視聴率を見てみると、2018年冬ドラマ(1〜3月期)は、純粋な医療ドラマは存在しなかったが、不自然死を扱う法医解剖医を描いた『アンナチュラル』が平均視聴率11.0%。ランキングとしては6位だったが、高い医療知識と脚本の質の高さに、マニアファンを獲得し、テレビドラマ関連の各賞を次々と受賞、第二弾を熱望する声も多い。

また、2017年のドラマ視聴率ランキングを見てみると、医療ドラマ人気はより明らかだ。
1位は、圧倒的な強さで『ドクターX〜外科医・大門未知子〜5』(テレビ朝日)平均視聴率20.7%。5位には、ドクターヘリを舞台に、緊急医療の現場を描く『コードブルー〜ドクターヘリ緊急救命〜3』(フジテレビ)が平均視聴率14.6%。6位には、木村拓哉が外科医を演じたことで話題になった『A LIFE 〜愛しき人〜』(TBS)が平均視聴率14.5%だった。他トップ20には、お馴染みの法医学研究員が登場する『科捜研の女』(テレビ朝日)、産科医療の現場模様を描く『コウノドリ2』などもランキングされている。

さらに、今夏のクールでは、7月からも自閉症でサヴァン症候群の小児科医の成長を描く『グッド・ドクター』(フジテレビ)、アルバイト看護師の視点で産婦人科の現状を描く『透明なゆりかご』(NHK)などが放映される。

医療ドラマの基礎を作った『白い巨塔』

日本での医療ドラマの映像化の始まりは、戦前の映画『小島の春』(大映 1940年)と言われている。ハンセン病療養所に勤めた女医、小川正子の手記を映画化したもので、テーマ性含めて医療関係者からも高い評価を得た名品と言われている。
その後、60年代は医療ドラマの人気を決定づける作品が相次いだ。こちらも医師らから、医療描写が的確であると評価が高かった黒澤明の映画『赤ひげ』(東宝 1965年)。そして、翌年には、医療ドラマの金字塔として君臨する『白い巨塔』(映画版;大映 1966年)が登場する。現在とは医療や放送倫理も違うが、映画版の『白い巨塔』のオープニングでは実際の開腹手術の映像を使用している。自ら大学病院に入院中に細かくリサーチを重ねたという山崎豊子のこだわりもあってか、1978年に放映されたドラマ版でも手術映像は、患者と病院へ許諾を取り、実際の映像が使われていたという。当時は、医療監修をスタッフクレジットに加えるという配慮はなかったが、実際の専門家が入って、アドバイスを加えていたことは間違いないだろう。
また、医学生のリアルな日常を描いた大森一樹監督の『ヒポクラテスたち』(ATG 1980年)では、京都府立医科大をはじめ、数多くの医療機関が撮影協力に参加していた。

テレビドラマの場合は、局によってスタッフクレジットの入れ方は異なるが、1992年放映の『往診ドクター事件カルテ』(テレビ朝日)では、"医事指導"、"看護指導"というクレジットが入った。その後も"取材協力"などの形で医療機関、医師などの名前が入るようになり、"医療監修"という言葉が使われるようになったのは『ナースのお仕事2』(フジテレビ 1997年)あたりのようだ。

医療監修の仕事の定義は、ドラマ制作チームによって異なる

その後、医療系ドラマでは、医療監修は定番化されていくが、どのような仕事なのかは明確な定義はないようだ。 今回、『ブラックペアン』で手術支援ロボットの医療監修を担当した『ニューハート・ワタナベ国際病院』の渡邊剛医師は、手術支援ロボットの『ダビンチ』の操作指導やロボット手術のときの動作指導、また、手術映像作成の協力、台本の医療部分の提案や修正などが中心だったという。

「私自身、医療監修は初めての経験でした。正直に申し上げると、少し想像とはかけ離れていました。台本をもらって、あれ?これは実際の医療からは逸脱している展開だな、と思って、台本に赤を入れることもありました。でも、専門用語が間違っているとか、動作展開がおかしいと思うものは、指摘が生かされるものもありましたが、ストーリーに関わる部分はそのままになるものが多かったですね。
例えば、ロボット手術と人の手による手術が対立構造のように描かれていましたが、2018年現在、実際の医療でそんな対立構造はもはや存在しません。そこを指摘しても、ストーリーの核となる部分は動きません。そのあたりに正直、違和感を感じる部分はありましたが、ドラマの医療監修はそういうものなんだな、と納得するしかありませんでしたね」(渡邊医師)

渡邊医師が医療監修に入ったのは5話から。その前に治験コーディネーター問題が起きていたので、ロボット手術の描き方で誤解を生まないように慎重になったというが、「ドラマはフィクションである」という制作サイドとの姿勢からオーバーに描くことを了承せざるを得ない部分もあったという。

「途中からは気持ちを切り替えて、ドラマによってロボット手術やダビンチの存在が世に広まればよいというふうに意識を変えることにしました。ただ、正しく伝わったかは少し不安が残りますね」(渡邊医師)

ドラマだけでなく、テレビと医療のつきあい方

ドラマ制作側の声を聞くと、医療ドラマには、①フィクション重視で医療関連の作業動作など部分的に指導を依頼するもの、②原作があり、原作者がきちんと医療取材をして、それをより補い、さらに動作指導を行うためにつけるもの、③脚本家やたびたび医療者に取材をして、脚本を作り上げていくもの、の大きく3つがあるという。

手間はかかるが、③は医療現場の生の声を取材してくれるため、医師としても納得できる脚本が多いという。最近の成功例でいえば、TBSの『アンナチュラル』やフジテレビ『コールド・ブルー』などは取材が綿密だったという声をよく聞く。医療的な意見が生かされ、脚本も非常に濃密なものに仕上がり、人気を集めた。医療従事者が医療監修として参加するなら、③がやりがいを持ってできるものなのかもしれない。

今回、治験コーディネーターの表現問題などに抗議が起こったが、SNSでは放映中にオンタイムで、実際の治験コーディネーターや医療現場のスタッフなどから、描き方への違和感が数多く上がった。中には、「医療監修がついているのになぜ?」という声まであがっていたのだが、今回のように、ストーリーやキャラクター設定には関与できない医療監修も少なくない。また、ドラマ制作サイドは、抗議が来ても、「フィクションなので表現は自由である」というスタンスを採る場合も多い。医療監修者側に、なんともいえないモヤモヤ感が残ってしまうことも多いようだ。

手術支援ロボット「ダビンチ」
手術支援ロボット「ダビンチ」

これはドラマだけではない。
最近多い健康番組に関しても、出演したことがある医師が「自分が思っていることと違うことが拡大化されてしまった」と不信感を抱くケースが増えている。伝えたいコメントはカットされ、番組が言ってほしいことだけクローズアップされることも。また、バックについているクライアントによって、「これは言わないでください」という事前お願いが来ることも少なくないという。

メディアのスタッフがみな医療に詳しいわけではない。医療を医療と考えず、視聴率が取れれば"トンデモ"でもいいと思っているケースすらある。医療サイドは正しい情報を世の中に配信するために、と考えていても、メディアサイドはそう考えてないこともままあるのだ。
そう考えると、医療従事者は、医療監修や出演などの依頼がきた場合は、慎重になることも大事だ。事前に取材があり、思っている意図を組んでくれるメディアなのか。さらに、伝えたい想いについて、きちんと放映、掲載する意思があるか、しつこいぐらい確認をする。

治験コーディネーターの仕事を誤解した視聴者がいたように、一般の人たちは、メディアの情報を鵜呑みにしやすい部分がある。だからこそ、メディアに対して少し慎重に関わることも必要なのかもしれない。

一方、視聴者として見ている側も、名医が出ている、医療監修がついている、と思うと、100%信頼できる情報だと捉えがちだ。もちろん、真摯な姿勢で作っている番組もある。だが、そういった制作側の姿勢は、なかなか明確には見えてこないものだ。しかも、メディア情報は、"トンデモ"であればあるほど無意識に刷り込まれやすいという特性がある。だからこそ、100%鵜呑みにせず、「一部を切り取っているだな」という前提のもと観ることが、身を守る手段になるのかもしれない。

医師・専門家が監修「Aging Style」

【渡邊剛先生プロフィール】
1958年生まれ、東京都出身。手塚治虫作品の主人公、天才外科医ブラックジャックに憧れ医師を目指す。金沢大学医学部卒業後、金沢大学・第一外科勤務後、ドイツ・ハノーファー医科大学留学。2000件にわたる心臓手術を経験し、日本人として最年少の32歳で心臓移植執刀医となる。帰国後、日本初の人工心肺を使用しない冠動脈バイパス術「OPCAB」や手術支援ロボットを導入した心臓手術など世界の最先端医療を取り入れ世界のベストドクターにも選ばれている。患者の負担が少ない手術を追及し続け「天使の手」とも称される天才心臓外科医。金沢大学第一外科教授を経て、現在、ニューハート・ワタナベ国際病院の総長を務める。
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