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9月1日:時間キーパー細胞(Natureオンライン版掲載論文)

場所に反応する細胞についての研究でノーベル賞を受賞したのはオキーフとモザー夫妻だが、海馬の多くのニューロンの興奮を行動する動物で記録し、行動と個々の神経活動とを関連づける手法で発見された。このように、行動に対応する神経活動をneural correlatesあるいはneural representationとして、同時に記録した多くの細胞の中から拾い出す研究を見ていると、いま世界中が騒いでいるAIが脳研究で普通に使われてきたことがよくわかる。すなわち行動に対応するneural representationがあれば、記録を続ければ発見できる。

今日紹介するノルウェーのカブリ研究所のモザー夫妻の研究室からの論文は時間の認識に対応するneural representationについての研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Integrating time from experience in the lateral entorhinal cortex (外側嗅内皮質での経験からの時間の統合)」だ。

この研究では壁の色で場所がわかる箱の中で行動するラットの、海馬のさまざまな領域の神経細胞集団の興奮を記録し、この中から様々な行動エピソードと相関して興奮する神経細胞を膨大な反応パターンの中からコンピュータで探し出している。例えば箱の中の場所には内側嗅内皮質(MEC)が、色の変化から判断される場所には海馬のCA3領域に反応する細胞が多い。これらの行動は当然時間で区切ることもできるが、この実験で場所とは全く無関係に10秒単位の時間リズムに美しい規則性で興奮する細胞が外側嗅内皮質 (LEC)に多いことを発見する。また、時間も10−20秒感覚というスケールで興奮を繰り返す神経だけでなく、1秒間隔で反応する神経も存在する。基本的には推計学の嵐といった感じの論文で理解するのは辛いが、LECでの時間リズムが他の場所でのエピソード記憶の基準を与えていることを示している。

これほど美しい時間を刻んで興奮する細胞が集団でしかもLECだけに存在すれば、あとはこの細胞と行動や、他の細胞との関連をAIで調べることになる。この研究で調べられたのは、8の字迷路を繰り返して進むように訓練されたラットを用いて、この時間ニューロンと繰り返し行動との関連を調べ、行動とは無関係に時間ニューロンが興奮するのか、あるいは行動の順番から時間を判断しているのかを調べ、時間ニューロンは行動リズムとは無関係に興奮していることを示している。

とはいえ時間は外界とは無関係に存在する細胞の内的リズムといったものではなく、これまで学習してきた結果が統合され記憶されたリズムであるようで、8の字迷路での訓練に応じてLEC内での時間ニューロンのリズムは正確になっていくことを示している。

すなわち、私たちの脳の時間は、微細な経験の変化や大きな順番などの経験を統合して、それ以前の経験から獲得した時間リズムを変化させていることになり、常に新しい時間を私達は内的に作り出し経験していることになる。そのための時間統合キーパーが多くの神経回路とつながるLECに存在するという、納得の結果だ。そして、この時間がまた、経験を統合する一つの指標として利用される。なるほど、歳を取って時間の経つのが早いはずだ。おそらく、もっと違った経験パターンを続ければ、高齢になっても違う時間を経験できるかもしれない。

[NPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン(AASJ) 論文ウォッチ]

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