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9月2日:習慣性のない新しい合成麻薬(8月29日号 Science Translational Medicine掲載論文)

痛みに対する薬剤開発はずっと続けられて来ているが、現在もなモルヒネを超える薬剤はないと言っても過言ではない。その結果、多くの国で医原性の麻薬中毒が国を揺るがす問題になっている。モルヒネはオピオイド受容体に結合して鎮痛作用を発揮するが、鎮痛作用の主役μ オピオイド受容体だけでなく、複数のオピオイド受容体に、様々な強さで結合して多彩な作用を及ぼし、中毒の原因になる。

今日紹介する米国ウェークフォレスト医科大学からの論文はnociceptin/orphanin FQ peptide(NOP)がμオピオイド(MOP)受容体の作用を高め、同じ鎮痛回路に発現していることに注目し、NOP/MOP両方の受容体に結合するリガンドを開発して習慣性や副作用のない鎮痛剤の可能性を示した論文で8月29日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「A bifunctional nociceptin and mu opioid receptor agonist is analgesic without opioid side effects in nonhuman primates(ノシセプチンとμオピオイド受容体の刺激剤は副作用のない鎮痛作用を猿で発揮する)」だ。

研究では最初からNOPとMOPの両方の作用を持つ薬剤開発に焦点を定め、これまでの様にMOPと同じ作用物質からスクリーニングするのではなく、すでに集めているNOP受容体に結合するリガンドの中から、MOP受容体にも低い親和性で結合するリード化合物として選びその改良を始めている。あとは、私が最も苦手な有機化学の独壇場で、受容体の構造からそれぞれの受容体への結合を調節する中でAT-121と名付けた化合物を選び出している。

それぞれの受容体を発現している細胞株で、期待通りの結合活性を持つことを確認し、脳への移行性など生体内での動態を確認した後、50度近いお湯にどれほど耐えられるかを指標に鎮痛作用を調べ、モルヒネと比べて高い鎮痛作用があることを示している。また、この作用がNOP,MOP受容体に結合する結果であることをそれぞれの受容体の阻害剤を加える実験で確かめ、期待通りのメカニズムで鎮痛作用が得られていることを示している。また猿の実験で、薬剤投与を続けた後、急に中断しても呼吸や循環などに特に変化がない。また長期使用でも、麻薬のように痛覚過敏は現れない。

あとは研究の難しい習慣性や副作用の問題だが、自分で麻薬を注射することを覚えさした猿を用いて、合成麻薬オキシコドンと比較している。オキシコドンは習慣性があるため、猿は一旦注射を覚えると自分で注射を繰り返すが、このような作用はAT-121には全く無い。さらに、猿を使って有効濃度の10−30倍のAT-121を投与しても、呼吸抑制などのバイタルにはほとんど影響はない。コントロールとして使ったらヘロインではすぐに呼吸抑制が観察された。また、オキシコドンの習慣性を弱める働きすら観察された。

以上のように猿のレベルでは、夢の麻薬が開発されたことになるが、こと人間となると麻薬製剤を本当に置き換えることができるのか、まだ決定するわけにはいかないだろう。ただ、理論的な可能性から分子の開発まで進んだ点で、期待しているし、これが人間でも確認されれば、ブロックバスターになるだろう。

[NPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン(AASJ) 論文ウォッチ]

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