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がん患者の気持ちを変える、注目の『アピアランスケア』って何!?

2人に1人が「がん」になる今、治療をしながら仕事や家事を行なう人も増えている。病気になってからも続く日常をよりよくするために様々な活動も始まっている。そのひとつが、今注目される『アピアランスケア』、外見へのケアだ。9月24〜26日に開催された朝日新聞社主催の「朝日地球会議2018」でのパネル討論『がん患者と装い〜アピアランス(外見)ケアの効果とは』を取材した。

2018朝日地球会議『がん患者と装い〜アピアランス(外見)ケアの効果とは』
朝日地球会議2018『がん患者と装い〜アピアランス(外見)ケアの効果とは』

がん治療で起こる外見の変化で感じた理不尽さが活動の原動力に

パネリストのひとりである山崎多賀子さんは、美容ジャーナリストであり、現在はNPO法人キャンサーリボンズ理事、NPO法人CNJ認定乳がん体験者コーディネーターとしても幅広く活動している。山崎さんの乳がんが発覚したのは2005年。早期発見ではなかったこともあり、主治医から手術、化学療法である抗がん剤や分子標的薬、ホルモン療法などの薬物治療を提案された。最初は、病気の恐怖、さらに治療にどんな副作用が待っているのか、恐れる気持ちも強かったという。

「がんと診断されてすぐは、死ぬかもしれない、でも、家族を置いては死ねない。抗がん剤でがんをたたくことができたとしても、その後の体力や見た目が変わることが怖かった。主治医には乳がんの抗がん剤で脱毛すると言われ、髪がなくなったら普通に生活することができるか。さまざまな不安に襲われました」

病気の治療薬には多少の副作用がつきもの。がん治療薬は現在、副作用が出にくい抗がん剤や投与の工夫などの研究も進んでいるが、それでも外見が変化する可能性は高く、それが患者の気持ちや日常生活に影響することは否めない。が、山崎さんは治療開始前の不安感をそのままにはしなかった。

「美容ジャーナリストという仕事柄、人と会い取材をすることもとても多い。さらに、バレーボールなど、趣味の時間も大事にしていましたが、外見が変わることで、周囲から"かわいそう"とみられてしまう。確かにがんになるというのは大変なことですが、私は別に"かわいそうな人"ではないし、憐みの対象になる人間ではないはず。がんになることで仕事や趣味ができなくなることは理不尽だ、という憤りが次第に大きくなり、あるとき、がんになったのなら、むしろそれを隠さずに堂々と生きてやる!と決めたのです。そのときの気持ちが、『アピアランスケア』への活動のエネルギーになっているのかもしれませんね」

元気に見えるメイクが治療への励み、生きる原動力になった

手術、化学療法、分子標的剤などの治療を受けいれた山崎さん。抗がん剤による脱毛の可能性を事前に聞いていたことと、美容の仕事をしていたことから外見ケアのために事前準備を行ったという。

「まず、ウィッグや帽子を購入しました。また、これは実際に経験して知ったことですが、頭髪が抜けたあと眉毛やまつ毛も抜け、肌や爪、手足の先がくすんでくるんです。すると、体調がよい日でも、顔は重病人にみえてしまうんですね。これは私の例ですが、そうなると、男なのか女なのか、若いのか歳をとっているのかわからない不思議な顔になりました」

周囲が自分の外見に対してどう思うだろうか、と"気おくれ"した山崎さんは美容ジャーナリストとして培ったメイクの理論や効果を応用してリカバーを試みた。

具体的には、眉を描くこと。それだけでも、黒目までくっきりした印象になり、表情も豊かになることに気づいたという。また、まつ毛がないと目の周りが肌色だけになり、表情全体がぼんやりとした感じに。これも目のキワにアイラインを描き足すことで、目ヂカラを作ることができた。さらに、くすみがちな肌は、コントロールカラー(肌色補正下地)と頬紅で血色感を足すことでいきいきした印象になるという。

「私の場合は、"元気よく"という印象を目指して、頬の真ん中の正面、"アンパンマンの位置"に頬紅を丸く入れました。すると、笑顔がふっくら丸顔になり、若々しく幸せそうな印象に変わるんです。こんなメイクで仕事に行ったら、乳がん治療中だと知らない同業者の人から『山ちゃん最近きれいになってない?』と声をかけられて。メイクする前は、不気味に見えるかもしれない......と思った顔なのに、少しメイクをしただけなのに、メイクってすごい!と驚きました。そのとき、私の"やる気スイッチ"が入ったんです」

そのとき入ったやる気スイッチは13年たった今、がん患者の方の顔を"元気"な方向に近づける、メイクセミナーとして、山崎さんのライフワークになっているという。

「外見が変わることで心が変わる、外見が変わることで、社会に遮断されそうになったり、繋がれたりもする。たかが外見と思うかもしれませんが、外見は他者に与える影響も非常に大きい。辛そうとか苦しそうとか、不機嫌そうに見えたら、気を遣うし話しかけづらいと思うんです。やっぱり笑顔でいる人には話しかけやすい。無理に明るく演じる必要はないけれど、たまには笑顔の時間を取り戻すことは大切なのだと感じるのです」

医療も動き出す、がん治療と"見た目"ケア

国立がん研究センターで、抗がん剤治療中の患者に身体症状の苦痛度の調査を行ったところ、女性は上位20位のうちの6割が外見に関係する身体症状についてだったという。

山崎多賀子さん(美容ジャーナリスト)
山崎多賀子さん(美容ジャーナリスト)

女性患者の外見に関係する項目では、1位「頭髪の脱毛」、6位「まつ毛の脱毛、8位「眉毛の脱毛 などがあがった。乳がん患者に限ると、治療に伴う吐き気が嘔吐、しびれや痛みよりも、「脱毛」や「乳房の切除」に苦痛を感じることが多かったという結果になった。 また、この外見項目に関しては、女性だけでなく、男性患者でも10位「足のむくみ」、15位「顔のむくみ」、18位「頭髪の脱毛」などが20位以内に入っていた。

「今は吐き気を抑える制吐剤の効果もよくなっているので、抗がん剤治療中でもふつうに生活や仕事をしている人が多くなりました。治療をしながら社会生活を送るからこそ、外見の変化はより大きな悩みになっていくのです」と山崎さんは言う。

そして、2013年に国立がん研究センター中央病院にアピアランス支援センターが立ち上がった。

「センター長の野澤桂子先生は以前から、がん患者の悩みとして増加している外見を支援することにより、前向きに生きられるのではないか、と話していました。今、がん領域の治療現場ではアピアランスケアという言葉とともに注目が高まっています。がん患者に外見の支援を行うことで前向きに治療、生活が送れるという研究も進められています。それは、キレイにするという美容の支援だけではなくもっと幅広い、外見で悩んでいる人に対して"その人が戻りたい場所へ戻す支援"です」

女性だけでなく、男性にも必要なアピアランスケア

海外では脱毛中の患者に美容サポートを行う世界的な組織が存在するが、日本ではそういった組織はまだないという。山崎さんは個人的に病院や患者会、がん関係のイベントをベースに活動し、外見に悩む患者へのヘアメイクやアドバイスを行なっている。このほか化粧品メーカー、広告代理店、NPOが協力して、プロのヘアメイクできれいになった患者さんをカメラマンが撮影するイベントが開催されるなど、外見ケアの活動は少しずつ広がっているという。

「最近は男性患者さんからの相談も増えています。男性のメイクは肌のくすみをカバーして、眉を自然に描きリップクリームを塗るくらいなので5分程度で終わります。少し手を加えるだけなのに、本当にいきいきとした印象に変わるので喜んでいただけます。"久し振りに笑ったよ"とおっしゃった方もいました。実は、男性のがん患者さんの7割の方が、外見の変化によって"仕事の信用をなくす"のではと恐怖を感じていることがわかりました。女性だけでなく、男性の患者さんもアピアランスの情報を欲しがっていたのです」

13年前、山崎さんは治療を始める前にウィッグを購入した。病気の不安、治療の不安を抱えながら、ちょっと高価だったけれど、似合うと思ったウィッグを、思い切って。そのウィッグをつけたとき「私はこれで大丈夫だ!」と思えたという。

「副作用を隠すためなら何でもいい、脱毛した頭を隠せればどんなウィッグでもいい、というわけではないんですね。隠すというネガティブな感覚ではなく、自分に似合うものを選んで、おしゃれをする。そこから、出かけようとか人に会おう、という前向きな気持ちが生まれます。何があっても人生、楽しいこととか自分のしたいことをあきらめることはないんです。そのために外見のケア、アピアランスケアの支援がもっともっと広がってほしいと願っています」

取材/文 海野由利子

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