文字サイズ
標準
大きく

自閉症スペクトラムの音楽療法(Translational Psychiatry 8:231 掲載論文)

自閉症スペクトラム(ASD)の主症状は、社会性の障害、言語障害、そして反復行動とされている。もちろんこれに異を唱えるわけではないが、言語障害については、発話や会話の障害と、表現能力とに分けて考える必要 がある。 というのも、 読まれたことがある人も多いと思うが、 東田直樹さんの有名な著作「自閉症の僕が飛び跳ねる理由」や、彼が22歳で発表した「飛び跳ねる理由」などを読むと、その表現力の豊かさに驚き、言語能力障害と診断するのが憚られる。これは東田さんだけの話ではない。米国の自閉症児Ido君の文章が集められている本「Ido in autismland」を読むと、英語を話さない私でも、素晴らしい表現力と想像力だと思う。特にこの本では、絵本を指差して読んでいる時、急にIdo君とのコミュニケーションを持つことができた感動的シーンや、Ido君が支援者へのスピーチで拍手喝采を得る感動的シーンが書かれているが、東田さんやIdo君が書いているように、表現しようにもコミュニケーションを阻害する抑制が強く働いているだけではないだろうか。だとすると、なんとかこの抑制を取り除く方法を開発する必要がある。

このための一つの方法として長く試みられているのが音楽を通じてコミュニケーションをたかめる治療法で、さまざまなプログラムが開発され、米国やヨーロッパでは数千人規模の音楽療法の専門家まで養成されている。ただその効果の評価をめぐっては、様々な研究結果が入り混じっているというのが現状で、例えば昨年8月にここで紹介した米国医師会雑誌に掲載された臨床試験研究では(http://aasj.jp/news/watch/7216)効果が認められないという結果に終わっている。

今日紹介するモントリオール大学からの論文も、111人のASD児を無作為化して音楽療法と、一般のASD治療プログラムに割り振ってその効果を確かめた研究でTranslational Psychiatryに掲載された。タイトルは「Music improves social communication and auditory-motor connectivity in children with autism (音楽はASD児の社会コミュニケーション能力を高め、聴覚野ー運動野の結合性を高める」だ。

この研究で用いられている音楽プログラムは他のプログラムと比べて大きく異なる点はない。ただ、全ての治療過程をビデオに収め、適切に行われたかどうかを調べている点とMRIによる脳イメージング検査を行って、より客観的評価を試みた点が新しいといえる。 だいたい10回の治療プログラムを受けた後でコミュニケーション、社会性、ボキャブラリー、家族内での生活の質、異常行動などを評価するとともに、MRIを用いて脳の機能的結合性をしらべている。

この研究の結果はポジティブで、コミュニケーションと家族内での生活の質は,、音楽治療によって改善している。さらに、これに対応して聴覚野と運動野の神経結合性が高まっており、脳自体の構造も変化したという結論だ。

すでに述べたように、同じような治験が行われ、さらに優れたプロトコル開発につなげていく必要があるが、MRIで調べられる脳の機能が、しかも学童期にあきらかに改善したという結果は今後の研究にとって重要だと思う。ASD児には音楽的才能のある子供が多い。このルートを利用するのは納得できる方法で、さらに多くのトライアンドエラーが科学的に重ねられる必要があると思う。これは私の個人的感触で、なんの根拠もないが、様々な論文を読んでいると、一歩づつASDの子供達のコミュニケーションを取り戻す方法が開発できているように感じる。

[NPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン(AASJ) 論文ウォッチ 2018年11月10日より転載]

注目情報

有益で確かな情報をお届けするという編集方針です。

「バリウム検査」は何のため?

2018年1月現在、49名の医師や専門家が「Aging Style」に参加しています!

おすすめ記事