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温故知新のアンチエイジング

「AI医療機器、国内販売へ 大腸がん、脳の病変診断支援」

これは今週、僕が最初に目にした医療関連ニュースの見出しだ。人工知能(AI)で病気の診断を支援する医療機器が今春にも国内販売される見通しになったとのこと。この見出しを目にした時、僕は神奈川県相模原市にある北里大学病院にいた。医師ではなく患者として。

7年前、80歳の時に僕は大きな交通事故を経験した。ニューヨーク行きフライトに乗る前の晩、成田空港近くのホテルに向かう僕が乗ったタクシーは、雨の高速道路で発生した複合事故に巻き込まれ大破。幸い命には別状なかったが、腰椎の圧迫骨折などの重傷を負い、以後2ヶ月間を北里大学病院、つまり僕のかつての職場の病室で過ごした。現在も足腰に痛みや痺れが残っており、月1回、診察を受けるためこの病院に通院している。

事故で入院していた当時もそうだったが、かつての職場を患者として訪れると不思議な感覚を覚えることがある。一言で表すとすれば、「医師として見える景色と患者として見える景色の違い」だろうか。

「真の発見の旅とは、新しい景色を探すことではない。新しい目を持つことである。」

これは20世紀を代表する長編大作「失われた時を求めて」を遺した、フランス人作家マルセル・プルーストの言葉だ。僕の場合、発見の旅というと少々大袈裟かもしれないが、患者として古巣の病院を訪れることは間違いなく「新しい目」を与えてくれた。病院内の待合スペースで他の患者達が往来するのをぼんやり眺める患者として。看護師や検査技師から説明や指示を受ける患者として。畏まって先生の診断・説明に耳を傾ける患者として。

『故きを温ねて(ふるきをたずねて)新しきを知る』
『故きを温ねて(ふるきをたずねて)新しきを知る』

話を記事見出しに戻そう。「AI(人工知能)」という語はいつの間にか一般に浸透した。聞くところによると、このAIの発展には人間の脳の神経細胞や神経回路網の研究が大きく貢献しているらしい。「AI」という語が一般的に使われるようになったのは最近のことだが、「人工知能」という語は日本でも数十年前から使われていた。実際、原語の「Artificial Intelligence」という言葉は僕がアメリカで形成外科医として修業していた1950-1960年代から存在し、彼の地ではSF小説や映画に登場するだけではなく様々な研究も行われていた。その研究や、その遥か昔から存在する脳科学が様々な形で現在のAI研究開発に繋がり貢献しているのだろう。

この見出しについてもう一つ。「診断」とは、医師が患者の病状を検査・診察した上で医学的に判断する行為のこと。最後にさりげなく付けられている「支援」という語が実は重要な意味を持ち、また、時には大きな誤解の元にもなり得る。今後、診断の「判断」部分において人工知能がどこまでその勢力を拡大するようになるのかは興味深い。診断支援より一足先に実現した手術支援の分野では、「ダビンチ」という手術支援ロボットが、改良を重ねる過程で医師を「支援」する能力を格段に進化させたと聞く。

医師と患者という生身の人間の間で行われる医療において、AIやITがその「支援」領域を拡大し続けると、最終的に医師に残される役割はどのようなものになるのだろうか。恐らくその役割は個々の専門分野によっても大きく異なる。生死も含め、成否の判定が明確な分野ほどAIやITに委ねられる領域が広がる一方で、僕が専門とする美容医療や、アンチエイジング医療の中でも患者と医師それぞれの主観が深く関わる分野においては、生身の医師でなければ果たすことのできない役割が比較的多く残るはずだ。

その「アンチエイジング」も、言葉は比較的新しいが、それ以前の様々な研究や試みが現在のアンチエイジング医学や医療に繋がっている。日本の医療の世界で「アンチエイジング」という言葉が使われるようになったのはまだ20年ほど前のこと。それに先立つ数年間にアメリカで成長した"Anti-Aging Medicine"(抗加齢医学)に端を発する。何か画期的な発見や発明があって生まれた呼び名ではなく、それ以前から存在した形成外科や皮膚科、内科など、個々の専門分野の中で行われていた医療の中でも特に加齢や老化に関わる領域を横断的に扱う医療や学問の名称として「アンチエイジング」が使われるようになった。アンチエイジング医療の始まりについては以前のコラムで書いたので興味のある読者は以下を一読してほしい。

医師への啓もう活動からスタートしたアンチエイジング──その歴史を振り返る(1)
http://www.agingstyle.com/2016/11/16001579.html?p=all

さて、戦前の物理学者で随筆家・俳人の寺田寅彦は、「科学上の骨董趣味と温故知新」と題した随筆の中で以下の通り力説した。

「自分は繰返して云いたい。新しい事はやがて古い事である。古い事はやがて新しい事である。 温故知新という事は科学上にも意義ある言葉である。」

温故知新とは、「故きを温ねて(ふるきをたずねて)新しきを知る」こと。過去の教えや物事を調査・研究し、その中から新たな知識や見解を得ることを意味する。学問や仕事としてアンチエイジングに取り組む専門家達にとってはもちろんのこと、日々、自身のアンチエイジングに取り組む人にとっても意義ある言葉だ。僕自身、自分の過去の景色を新しい目で眺め直すことがアンチエイジングの一助になっていることを日々実感して過ごしている。

[執筆/編集長 塩谷信幸 北里大学名誉教授、DAA(アンチエイジング医師団)代表]

医師・専門家が監修「Aging Style」

この記事の監修・執筆医師

塩谷 信幸
塩谷 信幸(しおや のぶゆき)

北里大学名誉教授
DAA(アンチエイジング医師団)代表
ウィメンズヘルスクリニック東京 名誉院長
アンチエイジングネットワーク理事長
創傷治癒センター理事長

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