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アンチエイジングは歯から、口から、笑顔から

「人は口から老いる! オーラルフレイルとは?」

1月に都内で開催された一般社団法人日本抗加齢医学会のメディアセミナー(http://www.agingstyle.com/2019/01/26002739.html)。同医学会の専門分科会の一つ、抗加齢歯科医学研究会のセッションは、同研究会代表で鶴見大学歯学部教授である斎藤一郎氏がスクリーンに投影したこの言葉で始まった。

鶴見大学歯学部教授 斎藤一郎氏
鶴見大学歯学部教授 斎藤一郎氏

オーラルフレイルは全身老化の注意報

「オーラル」は「オーラルケア」などの用語でもお馴染みとなった英語の「oral(口腔の)」に、「フレイル」は「frail(虚弱な)」に、それぞれ由来する。「フレイル」という言葉は加齢・老化による筋力や精神面の衰えを表す用語として浸透しつつあるが、「オーラルフレイル」はその全身的なフレイルに関する注意報のような役割を果たす。

「オーラルフレイルというのは、全身的な老化が虚弱状態(フレイル)まで進む前段階の、『前虚弱状態(プレフレイル)』の症状として現れます。具体的には、滑舌(発音、舌の回り)の低下、食べこぼし、むせ、噛めない食品の増加などです。たとえば、若い人の場合は食物が何かの拍子に誤って気管に入って『むせた』としても、吐き出す筋力が十分にあるため重大な事態に至ることは少ないのですが、高齢者の場合、むせて誤嚥(ごえん)したことにより肺炎になるケースが多く見られます。75歳以上の高齢者の死因の第1位は肺炎で、その大半を誤嚥性肺炎が占めています」

オーラルフレイルが悪化すると、咀嚼(噛む)機能低下、嚥下(飲み込む)機能低下などに代表される「口腔機能低下症」としての治療が必要となる。さらに悪化すると「口腔機能障害」となり、より専門的な治療を要することになる。日本歯科医師会はオーラルフレイルの大きな特徴が「健康と機能障害との中間にあり、可逆的であること」だとして、早期発見・早期対応の啓発を行っている。

さまざまな疾患リスクを招くドライマウス

斎藤氏によると口腔機能は大きく5つに分かれる。前述の咀嚼機能と嚥下機能のほか、唾液分泌機能、構音(発音)機能、さらには味覚・温覚・触覚などの感覚機能だ。唾液腺の機能や病態の研究を専門とし、今を遡ること17年前の2002年に鶴見大学歯学部病院で「ドライマウス外来」を開設した斎藤氏。唾液分泌機能の重要性についてこのように続けた。

「65歳以上の高齢者の3人に1人は『ドライマウス』と呼ばれる唾液分泌障害を患っています。唾液は、口腔内のウイルスや細菌を防ぐ自浄作用など、健康を維持する上で重要な役割を担っています。ドライマウスになると、潤滑油の役割も担う唾液が減少することにより滑舌が悪くなる、細菌が増殖しやすくなることにより口臭が悪化するなどの症状が見られます。それだけでなく、口腔内の衛生状態が悪化し、虫歯や歯周病、風邪などの感染症、胃炎や食道炎などの疾患リスクが高まります。中でも、『手のひらサイズの慢性炎症』という異名を持つ歯周病は、口腔と直結する呼吸器の感染症のほか、糖尿病や心血管障害、さらには妊娠異常、骨粗しょう症や関節リウマチ、アルツハイマー型認知症など、さまざまな障害や疾患の原因となる可能性やエビデンスが近年の研究で確認されています」

「手のひらサイズの慢性炎症」というのは、平均的な歯周病患者の歯周ポケットにある炎症の面積を合計すると手のひらの面積と同程度になるということに由来する表現だ。それだけの炎症がもし体の表面にあれば気付かず放置される可能性が低いが、歯周病の炎症は主に歯周ポケットの中で自覚症状なく静かに進行する。

歯周病の原因をたどると唾液中のカルシウムに行き着く。それが歯や歯茎に沈着し、細菌の働きにより歯垢から歯石へと成長すると歯茎で炎症が起きやすくなる。それがさらに進むと歯茎は腫れる一方でその中の骨は溶けるように痩せていく。歯がグラグラするなど重症化すると日常生活にも支障をきたすようになるが、問題はそれだけではない。歯周ポケット内で増殖する細菌は血管に侵入して全身を巡るほか、唾液と共に胃や腸にまで運ばれ、時には誤嚥により呼吸器にも運ばれてしまう。これにより全身でさまざまな疾患を引き起こすリスクを高めることになる。

ドライマウスはあくまでも歯周病の原因の一つだが、善玉菌、悪玉菌、日和見菌に分類される口腔内のさまざまな細菌のバランスを崩す原因となる。因みに、腸内の細菌集団は顕微鏡で覗くと花畑のように見えることから「腸内フローラ」と名付けられたが、それと同様、口腔内の細菌集団も「口内フローラ(オーラルフローラ)」と呼ばれている。

笑顔がオーラルフレイルを抑える

ドライマウスの直接的な原因は唾液分泌量の減少だが、その分泌量のコントロールには自律神経が大きく関わっている。緊張すると喉が渇くということは誰もが経験することだが、ストレスが少なく副交感神経が優位な時は唾液の分泌が促進される一方、ストレスが増すと交感神経の方が優位になり唾液分泌が抑制されてしまう。また、老化に伴う口腔の筋力低下も唾液の分泌を低下させると斎藤氏は言う。

「私たちは過去10年間で400名ほどの方々にさまざまな検査を実施し、全身の老化と口腔の老化の相関関係について研究を行ってきました。その結果、たとえば、唾液分泌に大きく関わる噛む力と握力の間に正の相関関係があることや、唾液の分泌量と若返りホルモンと言われるDHEAの分泌量の間にも同様の相関関係があることなどが確認されています」

さて、口腔機能は大きく5つに分かれると前述したが、口(くち)には重要な機能がもう一つある。口元の表情を作る機能だ。さまざまな表情の中でも特に笑顔について斎藤氏は興味深い研究について語った。

「楽しいから笑うのはあたり前のことですが、逆に、楽しくなくても笑顔を作ると楽しくなるという研究結果が幾つも発表されています。たとえば横向きの箸を口にくわえて無理やり笑顔を作らせた被験者の脳の活動をファンクショナルMRIという機器を使って調べると、嬉しさや楽しさに反応する前頭前野が活性化することがわかっています。この状態だと副交感神経が優位になり唾液分泌を促しますが、それだけでなく笑顔を作ることにより表情筋を鍛えることにもなり、それもまた唾液分泌につながるということは私の臨床研究でも確認しています」

「笑う門には福来たる」という言葉がある。日々の笑顔による「オーラル」アンチエイジング効果はきっと幸せを呼ぶはずだ。

医師・専門家が監修「Aging Style」

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