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「行きはよいよい、帰りは...」の豊胸術ジェル剤にメス

今週も政治、経済、社会など各分野で大きなニュースが続いたが、僕にとって最大のニュースは4月末のコラムでも書いた「ジェル豊胸」関連のもの。

ジェル豊胸で安全強調 代理店、対象外でも「韓国許可」 「顔限定」触れず
(2019/6/3 18:30 日本経済新聞 電子版)

ジェル輸入代理店 豊胸対象外でも「安全」 顔限定に触れず
(2019/6/4付 日本経済新聞 夕刊)

非吸収性充填剤にメス
非吸収性充填剤にメス

国内未承認で豊胸術後の健康被害の訴えが出ている「アクアフィリング」というチェコ製ジェル充填剤のニュースだ。国内代理店が「韓国で許可」と安全性を強調してウェブサイトで宣伝していたという。実際、韓国では顔に限定した1~5ミリリットルの使用は許されているそうだが豊胸のための使用は韓国でも認められていなかったと記事にある。

この代理店は韓国での認可範囲が顔に限定されることを知りながらもその点を記載していなかったことを認めた上で、「取引している医師に勉強会を実施しており、医師が充填剤の認可の範囲を説明すると思っていた。医師から健康被害など問題の報告はない」とのこと。

そもそも日本では厚生労働省が承認していない医薬品や医療機器の広告が許されていない。輸入や使用に関しては、保険診療ではなく自由診療の場合に限り、医師が所定の申請手続きを経て個人輸入した上で「自己の責任のもと」使用することが認められている。レーザーなどの医療機器や医薬品の場合も基本的には同じだ。医師の自己責任とはいえ、健康被害が発生した場合やその危険性が疑われる場合は関連学会としても対応が必要になる。

話は少しそれるが、僕はかつて、国内に同名で2つ存在する「一般社団法人日本美容外科学会」のうち通称「JSAPS」(Japan Society of Aesthetic Plastic Surgery)という学会の設立に深く関わり、理事長や総会会長を務めた。もう一つの学会の通称は「JSAS」(Japan Society of Aesthetic Surgery)。前者は直訳すると「日本美容形成外科学会」で後者は「日本美容外科学会」。前者は形成外科の専門医から成り、後者は形成外科医に限らず美容外科の看板を掲げる医師たちで構成される。

日本の場合、世界的にユニークな「自由標榜制」を採っており、医師免許があれば麻酔科を除く診療科の看板を自由に掲げることができる。同名の2つの学会が設立され今も存在していることの背景には政治的な歴史も深く関わっている。この話はまた別の機会に譲るとして、今回報道された「アクアフィリング」に関しては両学会とも、4年前に韓国で公表されたアクアフィリングを含む「非吸収性充填剤」の危険性に関する論文を受け、学会員に対して度々注意喚起を行ってきた。両学会のホームページにはその情報も掲載されている。

アクアフィリングなど非吸収性充填剤の問題に限らず美容外科や美容医療業界が抱える問題全般において、個々の医師・医療機関や関連企業だけでなく学会や厚労省の責任範囲や監視能力・強制力などに関連するさまざまな制度上の制約や問題が絡み合っている。そのような状況ではあるが、かつては連携など考えられなかった2つの日本美容外科学会が、この4月には非吸収性充填剤の注入による豊胸術を行うべきでないとする共同声明を他の関連2団体とともに発表したことの意義は大きい。片方の日本美容外科学会の生みの親の一人として、僕は美容医療がより安全で安心できるものになることを強く願うとともに、微力ながら今後もその実現に尽力したい。

[執筆/編集長 塩谷信幸 北里大学名誉教授、DAA(アンチエイジング医師団)代表]

医師・専門家が監修「Aging Style」

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