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精神疾患認定された「ゲーム障害」欧米の研究は「対戦型」、日本は「協力型」?

2017年7月のリリースからわずか2年弱で全世界のユーザー数が2億5千万人を超えた人気オンライン対戦ゲーム「フォートナイト(Fortnite)」。ゲームに興味がなくても、7月末にニューヨークで開催された同ゲームの世界大会で16歳の優勝プレイヤーが300万ドル(約3億2600万円)の賞金を獲得したというニュースを目にした読者は少なくないだろう。

ICD-11「ゲーム障害」発効へ
ICD-11「ゲーム障害」発効へ

そのフォートナイトの躍進と足並みを揃えるかのように策定が進展したのが世界保健機関(WHO)の「国際疾病分類(ICD)」第11回改訂版、通称「ICD-11」だ。ICDは国際的な死因・疾病の統計分類基準だが、使途は統計調査だけでなく研究から診療記録や保険請求まで幅広い。約30年ぶりの改訂版となったICD-11には分類の変更や細分化によるものも含め多数の疾患が新たに加わった。中でも多くの議論を巻き起こしたのが「Gaming Disorder(ゲーム障害)」だ。


「ゲーム障害」とは?

WHOは数年間にわたる策定プロセスを経て、ゲーム障害の主な診断基準として以下を示した。

・ゲームをする時間や頻度などを自分で制御できない
・日常生活において他の何よりもゲームを優先させる
・日常生活に問題が生じてもなおゲームを続ける
・上記3つの条件に当てはまる状態が12ヶ月以上続き、
 社会生活に重大な支障が出ている

ゲーム障害が盛り込まれたICD-11は2017年12月に最終草案が、2018年6月には改訂版がそれぞれ公表され、2019年5月の第72回WHO総会で採択された。その度に海外、特に欧米では、ゲーム障害に関してゲーム業界団体や企業、教育機関、医療機関、学会、メディアなどがさまざまな声明や見解・論説、研究成果などを公表し、専門家や関係者の間で大論争が巻き起こった。


WHO「ゲーム障害」認定を巡る賛否

「ゲーム障害」という精神疾患が認定されることはゲーム業界にとっては名誉や死活に関わる問題。業界内ではWHOや賛成派の専門家に対する否定・批判のオンパレードだったが、医学界では賛否両論が飛び交った。ゲーム障害が疾患として認定されることにより治療を必要とする患者が適切な治療を受けることができるようになるという賛成派に対し、ゲーム障害やゲーム依存に関する科学的な証拠があまりにも不十分だとする反対派。

精神医学において国際的に使用されているアメリカ精神医学会(American Psychiatric Association、APA)の診断基準「精神障害の診断と統計の手引き(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)」の2013年に改訂された第5版、通称「DSM-5」では「インターネットゲーム障害(Internet Gaming Disorder)」が「今後の研究のための病態(Conditions for Further Study)」として扱われている。WHOのICDにはこのような経過措置的な分類が存在しないことで、ICD-11へのゲーム障害の追加においては「科学的な証拠」の質や量を巡る議論に拍車がかかった。

また医学界の外では、ゲーム障害が精神疾患として認定されることによりゲームという趣味・娯楽やいわゆるゲーマーに対する偏見や差別が助長されるという反対意見が噴出する一方、疾患認定により病気としての線引きが明確化されることでゲームやゲーマー全般に対する過度の偏見や差別を抑制することができるという賛成意見も出た。WHO採択前月の4月には、ICD-11を巡る議論に直接関与するものではなかったものの、「孤島で他の99人のプレイヤーとともに最後の1人になるまで生き残りをかけた戦いを繰り広げる」という前述のフォートナイトに関して英国ヘンリー王子が「中毒になるように作られている」と批判。英国では禁止されるべきと発言したことがゲーム障害の議論の火にも油を注いだ。

その後、5月下旬にICD-11が採択された後は論戦も急速に鎮静化し、各界では2022年1月の発効へ向けた実務的な検討や対応が進んでいるようだ。


欧米は「対戦型」、日本は「協力型」?

一方、アジアのゲーム大国である日本では欧米のような激しい論争は起きず、各界はICD-11採択に至るまでの海外での経過を見守ったようだ。ゲーム業界側では今のところ、5月のICD-11採択に先立ちコンピュータエンターテインメント協会(CESA)をはじめとする業界4団体が合同で、「科学的な調査研究に基づく効果的な対策を模索することを目的に、公正中立で専門性を持つ外部有識者による研究会に、調査研究の企画や取りまとめを委託する」とする発表にとどまっている。

もともとゲーム障害がICD-11に追加されるきっかけを作ったのは2011年に日本初となるインターネット依存の専門診療を開始した国立病院機構久里浜医療センター。樋口進院長をはじめとするチームは診療の傍らゲーム依存に関する論文などを海外で幾つも発表し、ICD-11の疾患認定に大きく貢献した。2011年といえばスマートフォン向けソーシャルゲームの「コンプリートガチャ」の射幸性や中毒性が社会問題化しつつあった時期だが、PCオンラインゲームの中毒性は既に2000年代後半から韓国など一部の国では深刻な社会問題になっていた。あくまでもマニア中心の現象だったゲーム依存の潜在的な裾野を劇的に拡大したのはスマートフォンの普及だ。それとともに近年は、2018年5月に「ネット・ゲーム依存外来」を開設した神戸大学医学部附属病院など、ゲーム依存を扱う総合病院やクリニックが全国で徐々に増えている。

ゲーム業界では伝統的に、欧米ではアクションやシューティングなどのゲームジャンルの人気が高い一方、日本ではロールプレイングやアドベンチャーなどの人気が高い。オンラインゲームやスマートフォンゲームの時代を迎えてからも、欧米では対戦型ゲームを好むプレイヤーが圧倒的に多いのに対して、日本では協力型ゲームを好むプレイヤーが多いと言われる。国内ではゲーム依存者が自分の意志でゲームに区切りをつけられなくなる理由として「他のプレイヤーに迷惑をかけてしまうから」が挙がるケースも少なくないという。日本人の国民性が表れているのではないだろうか。


今後のゲーム障害研究は...

米国のコンテンツ配信ソリューション会社Limelight Networksが3月に公表したオンラインゲームのユーザー実態調査の最新版によると、日本では1週間あたりのゲーム時間が20時間を超えるヘビーユーザーの比率が前年より増している。また、1週間あたりの平均ゲーム時間が前年の5.48時間から6.88時間へと長くなったほか、1回の連続ゲーム時間が最長で15時間を超えたことがあると回答したユーザーの割合は日本が他国を大きく引き離して8%で1位となっている(世界平均は4.3%)。

かつて1990年代後半から2000年代前半にかけては、ゲームを巡る問題といえばゲーム内の暴力表現問題が筆頭に挙がった。その多くは海外ゲーム会社が開発したゲームによるもので、「日本の青少年や市場をどうやって海外の悪影響から守るか」という構図と意識の中、欧米の事例や対策を参考にすることで国内の対策や制度が整備された。今回のゲーム依存の問題はそれとは大きく異なり、日本人の国民性や生活様式など日本固有の要素が大きく関わる中で問題が生まれ深刻化している。

ゲーム障害がICD-11で疾患として加わることが決まり、今後、国内外でゲーム依存に関する研究は加速するだろう。欧米ではこれまで対戦型、あるいは乱戦型と呼ぶべき様相を呈して議論や研究が展開してきたが、日本では協力型の展開を見せることになるのかもしれない。展開モードはそのいずれにしても、日本では日本人の国民性や日本固有のゲーム事情なども踏まえつつ、国際的にも貢献できるようなゲーム障害研究がさらに進むことが期待される。


【参考】国際疾病分類 第11回改訂版(ICD-11)抜粋

国際疾病分類 第11回改訂版(ICD-11)抜粋

11.2 Disorders due to addictive behaviours
  (嗜癖行動による障害群)

11.2.1 Gambling disorder
  (ギャンブル障害)
11.2.1.1 Gambling disorder, predominantly offline
  (ギャンブル障害、主にオフライン)
11.2.1.2 Gambling disorder, predominantly online
  (ギャンブル障害、主にオンライン)
11.2.1.3 Gambling disorder, unspecified
  (ギャンブル障害、詳細不明)

11.2.2 Gaming disorder
  (ゲーム障害)
11.2.2.1 Gaming disorder, predominantly offline
  (ゲーム障害、主にオフライン)
11.2.2.2 Gaming disorder, predominantly online
  (ゲーム障害、主にオンライン)
11.2.2.3 Gaming disorder, unspecified
  (ゲーム障害、詳細不明)

11.2.3 Other specified disorders due to addictive behaviours
  (その他の明示された嗜癖行動による障害)

11.2.4 Disorders due to addictive behaviours, unspecified
  (嗜癖行動による障害、詳細不明)

注: 日本語の正式名称はいずれも未定(上記はICD-10の日本語名に準じた編集部参考訳)

【参考文献】

International Classification of Diseases, 11th Revision (ICD-11)
(世界保健機関/World Health Organization、WHO)
https://www.who.int/classifications/icd/en/

Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders (DSM–5)
(アメリカ精神医学会/American Psychiatric Association、APA)
https://www.psychiatry.org/psychiatrists/practice/dsm

Limelight Networks: THE STATE OF ONLINE GAMING – 2019
(オンラインゲーム実態調査 2019年版)
https://www.limelight.com/resources/white-paper/state-of-online-gaming-2019/

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