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睡眠 x テクノロジーの最前線、「スリープテックEXPO 2019」

健康で豊かな生活を実現するために欠かすことのできない睡眠。
寝ているときの環境だけでなく日常生活のあらゆるシーンが睡眠の質に大きな影響を及ぼし、その睡眠の質はまた日々のさまざまな活動に影響を与える。そんな睡眠の質を科学技術のイノベーションにより高める分野として注目を集めているのが「スリープテック」だ。

スリープテックEXPO 2019
スリープテックEXPO 2019

10月9日から11日までの3日間、東京ビッグサイトでテクノロジーとビジネスの「クロス領域」で起こるイノベーションの祭典、「日経 xTECH EXPO」が開催。昨年に続き第2回となった今回は、新たに加わった「クロスヘルス EXPO」と「日経クロストレンド EXPO」のほか、特別企画として「スリープテックEXPO」が併催された。

「スリープテックEXPO」の企業展示フロアでは睡眠のサポート・改善のためのデバイスやアプリ、サービス、寝具などが紹介されたほか、イベントステージやセミナールームでは睡眠研究に関わる専門家やスリープテック企業による講演が行われた。

「アブセンティズム」と職場の睡眠不足対策

近年、企業の生産性を左右する大きな要因の一つとして注目を浴びているのが従業員の健康の中でも睡眠。「アブセンティズム(absenteeism)」と呼ばれる習慣的な欠勤だけでなく、出勤していても体調などにより業務効率が低下する「プレゼンティズム(presenteeism)」問題の原因としても、睡眠は企業にとって重要課題として認識されつつある。このため、従業員の健康維持の一環として睡眠問題に取り組む企業が増えている。

O: SLEEP リテンション
O: SLEEP リテンション

スマートフォンアプリによる従業員向けの睡眠トレーニングサービス「O:SLEEP」を展開する株式会社O:(オー)は、「O:SLEEP」から得た各従業員の睡眠データをもとに従業員の睡眠状態を可視化するクラウドサービス「O:SLEEP リテンション」を紹介。企業が従業員の睡眠状態を把握することにより、メンタルヘルス問題や離職の予防・対策に取り組み、企業収益の拡大につなげようというサービスだ。

睡眠モニタリング寝具、気象予報連携エアコンから海外旅行の時差ボケ対策まで

スリープテックパビリオン
スリープテックパビリオン

同じく、スリープテックにより企業組織内の睡眠課題の可視化から従業員の睡眠習慣改善まで一気通貫の支援サービスを提供する株式会社ニューロスペースは、ANAホールディングス、KDDI、シャープ、フランスベッドなど提携企業との合同パビリオンを展開した。

家電メーカーのシャープは、業界初となる、気象予報を活用して就寝中の快適な温度管理ができるエアコン「プラズマクラスターエアコン<Xシリーズ>」を紹介。フランスベッドは電動リクライニングマットレス「RP-5000SE」を展示した。このマットレスはKDDIの専用アプリ「Real Sleep」や睡眠モニタリング・サービス「with HOME」と連動し、精度の高い睡眠データの計測が可能だ。通信関連機器メーカーのフジクラは健康寿命延伸とQOL向上を目指した新規事業の一環として、米ベンチャー企業との提携により開発が進む脳波計測と音声フィードバックによる入眠支援ヘッドバンド「Sleep Shepherd Blue」などの取り組みを紹介。オーダーメイド枕の「まくらぼ」は、睡眠計測アプリ「Dr. Sleeping」と連動する枕やマットレスを展示した。

ANAホールディングスは、「乗ると元気になるヒコーキ」というキャッチコピーのもと、その第一弾としてニューロスペースと共同開発中の「時差ボケ調整アプリ」を紹介。これは、海外旅行者が悩まされる時差ボケによる眠気や集中力低下、睡眠の質の低下などの問題に対する予防策や対応策を提供する2020年4月スタート予定のサービスだ。時差情報や時差ボケ発生リスクなどの一般的な情報提供だけでなく、具体的なフライト情報に基づき、体内時計タイプ別に食事や睡眠・仮眠、体の動かし方といった機内での過ごし方などの時差ボケ対策を個別にアドバイスする。

「ハイパフォーマーの睡眠、そしてSleepTechビジネスの未来」

また、展示フロアのメインステージでは連日、株式会社ニューロスペース代表取締役社長・小林孝徳氏による「ハイパフォーマーの睡眠、そしてSleepTechビジネスの未来」と題した講演が行われた。

ニューロスペース 代表取締役社長 小林孝徳氏
ニューロスペース 代表取締役社長 小林孝徳氏

小林氏は自身の睡眠障害をきっかけに睡眠問題に取り組むようになりニューロスペースを設立。大学や医療機関と連携して開発した睡眠改善プログラムを吉野家やDeNA、Panasonicなど多くの企業に導入し、クライアント企業の従業員の睡眠改善に取り組んでいる。

同社の調査によると、生産性の高いハイパフォーマーと呼ばれる人々の睡眠の傾向として、就寝時間にかかわらず起床時間が一定であることや、ベッドに入ってすぐに眠れること、昼間に15~30分程度の仮眠をとっていることなどが挙げられるという。また、帰宅途中や夕食後に仮眠を取らないことが夜の睡眠の質を高めるとして、このような睡眠に関する知識がより良い睡眠を得ることにつながり、仕事の効率を大きく左右するとした。

十分眠れていない人が仕事でミスをするのはある意味当然のこと。個人だけでなく企業や社会が「睡眠」を理解しその改善に取り組むことで、働きやすい会社や従業員満足度の高い会社を作ることができ、結果的には利益の向上につながるはずだと結んだ。

「睡眠のセンシング技術:家庭用デバイスへの応用」

「日経 xTECH EXPO」メイン会場に設けられたセミナールームでは、「睡眠負債」「スタンフォード式 最高の睡眠」で著名なスタンフォード大学教授で睡眠生体リズム研究所長の西野精治氏や、食事の摂取時間・体内時計に関わる「時間栄養学」の第一人者で早稲田大学先進理工学部教授の柴田重信氏など、多彩な顔触れによるセミナーが連日開催された。

その中の一つ、東京大学アイソトープ総合センター特任研究員の裏出良博氏は「睡眠のセンシング技術:家庭用デバイスへの応用」というテーマで講演。

東京大学アイソトープ総合センター 裏出良博氏
東京大学アイソトープ総合センター 裏出良博氏

裏出氏は脳内神経伝達物質を専門とする研究者で、コーヒーを飲むと眠れなくなる理由を解明したことで知られているが、脳波を計測する機器開発との関わりも深い。講演では、浅い眠りの「レム睡眠」時と深い眠りの「ノンレム睡眠」時の脳波の比較から、南極・昭和基地や宇宙飛行士・古川聡氏のなど自身が関わった携帯型脳波計の開発や実証実験、各種の携帯型脳波計測機器や脳波解析ソフトウェアの比較、さらには欧米の一般向けウェアラブル脳波センシング機器や睡眠ソリューション機器の最新トレンドまで、計測技術の進歩と低コスト化により一般家庭での可能性も広がる脳波センシングの過去・現在・未来について解説した。

一般向けの睡眠改善機器やアプリの場合、睡眠計測は体動やいびき・音声のセンシングによるものが主流。睡眠深度の判定精度は近年の技術革新で高まっているが脳波計測には及ばない。裏出氏はスリープテックのさまざまなプロセスを、脳波や体動、血圧、心拍、呼吸など、睡眠深度をはじめとする睡眠状態のセンシングと、その計測・分析結果を踏まえて視覚・聴覚・触覚や痛覚・圧覚・振動覚などへの作用により睡眠の質の改善や悪化予防を図るソリューションの2つに分け、これらが連動するシステムを「スリープテックのエコシステム」として図解した。家庭用や一般向けのスリープテックにおいては必ずしも脳波計測レベルでの精度が必要とされないケースもあるが、裏出氏が海外の最新トレンドとして「スマート寝具」「いびき対策製品」とともに挙げたのが「脳波計測(活用)製品」。今後、脳波計測機器の小型化・簡便化や低コスト化によっては日本にもその流れがやってくるだろう。

いわゆる「自覚なき睡眠障害」も含めると15兆円超とも言われる日本の睡眠障害による経済損失。スリープテックを活用した睡眠マネジメントは単に個人の快眠獲得や生産性向上、メンタルヘルスの維持・改善にとどまらず、企業の生産性向上や収益拡大、そして社会全体の成長や健康寿命の延伸の可能性につながる。スリープテックEXPOは、家庭と職場、個人と企業、研究開発と商品化・事業化、センシングとソリューションなど、さまざまなセグメントやレイヤーが連動することで進化するスリープテックの未来を予感させるイベントとなった。

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