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大炎上「血液クレンジング」騒動は氷山の一角

今週は「血液クレンジング」のアンチエイジング効果についていろいろな人から意見を求められた。

先月からネット上では一部の「体験者」芸能人も巻き込む炎上騒ぎになっていたようだが、今週、衆議院の厚生労働委員会で尾辻かな子議員が「血液クレンジング」の実態について厚労省幹部を追及したことでニュースが広まった。

「血液クレンジング」「血液オゾン療法」こと「大量自家血オゾン療法」

この血液クレンジング、正式名称は「大量自家血オゾン療法」とされているが、治療法の名称として一般的なのは「血液オゾン療法」だろう。白状すると、僕はこれまで幾度かその名を耳にしたことはあるものの、治療法の具体的な内容は把握していなかった。これを推進している学会のウェブサイトを見ると、全国の200近い内科、美容皮膚科、美容外科クリニックなどで行われているようだ。

血液オゾン療法では患者から採取した100~200ml程度の血液に医療用のオゾンガスを混ぜ、それをいわゆる点滴の要領で体内に戻す。比較的シンプルな点滴治療だ。血液に対して「少量の酸化ストレスを与えることで身体が本来持つ抗酸化力を高める」ことにより疲労回復や美容・アンチエイジング効果を得ることができるとされ、一部のクリニックのウェブサイトでは心筋梗塞やがんにまで効果があることをほのめかしている。

僕は点滴治療の専門家ではないので治療効果についてはなんとも言えないが、美容医療に長年関わってきた身として、このようなケースにおける厚労省の役割についてはいろいろと思うことがある。

劇的なビフォー・アフター

厚労省の話の前に、いわゆる「ビフォー・アフター」の視覚効果について触れておきたい。

赤血球に含まれるヘモグロビンには、酸素と結合すると鮮やかな赤色になる性質がある。肺の中で酸素を多く取り込み、心臓というポンプで全身に送り出される「動脈血」がいわゆる鮮血色をしているのはこのためだ。血液オゾン療法で採取される血液は静脈血のため、医療用オゾンガスで血液が鮮やかな赤色に変わるという視覚効果は大きい。

シミ取りや美白ケアのような肌に対する施術の写真では「ビフォー・アフター」も珍しいものではないが、その効果が表れビフォーとアフターをちゃんと比較できるようになるまでには数週間から数ヶ月を要する。例えば先月のコラムで書いたシミ取りレーザーの場合、照射後の「かさぶた」のような施術後のダウンタイムは比較的短い。だが、僕が専門としてきた顔や体の各部位の「形成」を行う形成外科手術の場合、その目的が再建であれ美容であれ、数ヶ月から数年かけて治療するものも多い。その間、患者は不安と期待の入り混じる日々を過ごすことになる。

一方、今回の血液オゾン療法の場合、体外に取り出した血液が鮮やかな色に変わるさまを手品のように患者の目の前で見せることができる。いずれにせよ肺に戻れば酸素補給される血液に一足早く酸素補給することの治療効果はともかく、血液が「クレンジング」されたことを患者が実感するに足る視覚効果はあるだろう。効果のない薬や治療法であっても患者自身がその効果を信じ込むことで症状が多少改善することがあるという、いわゆる「プラセボ(偽薬)」効果に繋がる可能性はある。

余談だが、このような酸素補給を24時間365日、何十年も休まず続ける肺は大したものだ。

さて、冒頭で触れた尾辻議員の厚労省に対する追及は、この血液オゾン療法の安全性や医療広告上の問題に対する厚労省の認識や見解に関するものだった。

未承認の医薬品・医療機器による治療

尾辻議員の質問に対し厚労省の担当局長は、血液オゾン療法においては「医薬品や医療機器として有効性・安全性を確認されて薬事承認された製品はない」とする一方、その効果や安全性については把握していないため実態調査を行なっていると回答したという。

日本の医学や医療の常識の中には一般常識ではないことも多いが、この厚労省幹部の説明に対して、医療関係者ではない一般の人はどう感じるのだろうか。

日本の場合、医師個人の判断と責任に基づき未承認の医薬品や医療機器を患者の治療で使用することが認められている。その多くは海外である程度の使用実績がある製品で、手続上は医師が個人輸入することで入手する。保険診療しか行わない医療機関は別として、自由診療を行う医療機関、特に美容医療系の場合、未承認の医薬品や医療機器を使っていない医療機関は少ないかもしれない。

このような国内未承認の医薬品や医療機器は宣伝広告に関して厳しい規制と多少の監視は受けるものの、使用に関しては規制対象外。そして残念ながら、広告・使用ともに実質的には野放しになりがちだ。尾辻議員の追及は医療広告問題にも及んだが、一番のポイントはやはり治療としての安全性。血液オゾン療法の場合、ヨーロッパでは現在に至るまで長い歴史があるようだが、アメリカではFDAがオゾンを使用した治療を3年前に禁止した。国内では幸い、健康被害などの事例は起きていないようだ。

厚労省レーダー

アメリカの医学や医療がすべて正しいわけではないが、厚労省には少なくとも今回、この治療法の効果や安全性について「把握していない」という回答よりもまともな回答ができるよう、欧米の関係機関に対する調査や国内実態調査などを進めていて欲しかったと思う。

厚労省レーダー
厚労省レーダー

自由診療が主体の美容医療においては今も昔も、今回のように有効性や安全性に疑問を投げかけられる例が多くある。疑問どころか深刻な健康被害が発生するケースは現在も後を絶たない。僕は国内未承認の医薬品や医療機器に対しては必ずしも反対論者ではないが、その大前提となるのはそのような医薬品や医療機器に対する個々の医師の深い見識と高い倫理観。それに加えて厚労省も、次々と登場する国内未承認製品に対して海外主要国での実績や実態、特にリスク情報については真っ先に把握できるようレーダーを張り巡らせ、後手に回ることなく啓発などの情報発信も含めた適切な対応をタイムリーに行うことを願っている。

[執筆/編集長 塩谷信幸 北里大学名誉教授、DAA(アンチエイジング医師団)代表]

医師・専門家が監修「Aging Style」

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