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「髪は長~い友達」 毛根培養からAGA治療へ

中高年の方ならご記憶だろう。今を去ること40年ほど前、「抜け始めてわかる、髪は長~い友達」という育毛剤のテレビコマーシャルが人気を呼んだことがあった。

僕は幸い、育毛剤や発毛剤の世話になることなく中高年期を過ごすことができた。70代後半からは、徐々にとはいえ自覚するほど薄毛が進んだが、今や数週間後には米寿を迎えようという老人だ。さすがに髪との友情に執着する年ではない。

そんな僕だが、毛髪研究とはかれこれ40年ほど「友達」関係が続いている。日本で植毛や増毛の研究に取り組んだ外科医としては草分けだったのではないかと密かに自負もしている。

培養皮膚から毛根培養へ

毛髪研究のきっかけを作ってくれたのは、大手かつらメーカーの開発部長だった。

僕を訪ねて北里大学の形成外科にやってきた彼は挨拶もそこそこに、毛根を増やす方法がないかと尋ねた。会社の主力商品はかつらだが、将来的な柱としては自前の毛を増やす事業も育てたいという。その後も足繁く通う彼の熱意にほだされた僕はつい安請け合いをしてしまい、そのメーカーとの共同研究を始めることになった。

安請け合いといっても、当時の僕は大学病院の医局とは別に基礎研究のチームも抱えており、彼らとはやけど治療のための培養皮膚の研究を進めていたため、毛根に関しても多少の土地勘はあった。だが、その研究ではタッチの差でハーバード大学のチームに先を越されてしまい、ちょうど軌道修正を検討していたところ。研究予算ならいくらでも出せると言われたことも魅力的だった。結果的には研究期間が「いつまでも」という話ではなかったのだが、僕が冗談半分に「実用化には20年ほど」と予防線をやんわりと張った状態で毛根培養の共同研究はスタートし、僕の定年退職後もしばらく続いた。

残念ながら毛根培養の研究は目立った成果がないまま中止となり、その後、そのメーカーとは発毛専門外来のクリニックを立ち上げた。それと前後して華々しく登場したのが発毛の救世主「ミノキシジル」だ。

AGAにも心のケア

ミノキシジルはもともと血圧を下げるための降圧薬に含まれていた成分だが、副作用として体毛の増加が認められたことで発毛剤に転用された。毛根の数こそ増やせないものの、ミノキシジルのおかげで休止期の毛根を活性化することが可能になった。

あれから20年。発毛・育毛のための治療は飛躍的に進化した。

最近は「AGA」という名称も定着した男性型脱毛症だが、いわゆる薄毛の原因は主に3つある。一つ目は加齢による変化で、具体的には細胞活性の低下と頭皮の血流不足。これに対しては外用薬のミノキシジル(リアップ)が有効だ。二つ目は男性ホルモンの影響。その代表格「テストステロン」はいわゆる「男性力」の源だ。このテストステロンが直接毛根に作用するわけではないが、ある酵素と結合してDHTという別の男性ホルモンに変化すると頭髪の発育を妨げてしまう。ただ、今はその作用を抑える「フィナステリド(プロペシア)」と「デュタステリド(ザガーロ)」という内服薬がある。

そして、三つ目の原因は、体質などの遺伝的な要素。AGAは進行性の脱毛症で、その「進行スケジュール」は遺伝子にプログラムされている。AGA治療を継続している間は発毛促進・育毛や脱毛予防の効果が続くが、治療を中止すると頭髪はやがて本来の状態に戻る。その本来の状態というのは、仮に治療をしなかった場合にその年齢でなっていただろう状態。つまり治療を開始した時から薄毛が本来のペースで進行した状態ということだ。遺伝的な要因に対する解決策は今のところ存在しない。

髪は長~い友達
髪は長~い友達

そのほか、食事や睡眠などの生活習慣やストレスといった後天的な要因もある。特にストレスなどの心の問題は、AGAに影響を与えるだけでなく、逆にAGAの状態が心にも影響を与える。医学的には薄毛の判断ラインというものは特に存在せず、AGA治療は患者の主観にかなり左右される。AGA治療に限らず美容医療全般に当てはまることだが、精神科医や心理カウンセラーのスキルが必要とされる場面は意外と多い。

ところで、大手かつらメーカーと共同で立ち上げたと前述した発毛専門外来のクリニックはその数年後、メーカー側の事情により他社に事業譲渡されたのだが、クリニックは新天地で飛躍的に成長した。その過程で僕は育毛シャンプーの開発にも深く関わった。それが僕が現在も名誉院長を務めるクリニックだ。毛根培養の夢は叶わなかったが、髪がご縁で「長~い友達」に恵まれたと言えよう。

[執筆/編集長 塩谷信幸 北里大学名誉教授、DAA(アンチエイジング医師団)代表]

医師・専門家が監修「Aging Style」

この記事の監修・執筆医師

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